デジタルツインセンター

東京工科大学 HOME> 特別座談会 第2回

特別座談会 第2回

従来のシミュレーションとは一線を画すデジタルツイン

司会:野島 顔写真野島

デジタルツインは幅広い産業にイノベーションをもたらす技術として関心が高まっていますが、その捉え方や定義には個人差があるようです。皆さんはどのように捉えていますか。

野島 写真
生野 顔写真生野

私が考えるデジタルツインの重要なポイントのひとつはリアルタイム性です。つまり、リアルタイムでデータのフィードバックやバックアンドフォースを行い、効率性が高まったら、さらにシミュレーションを重ねて最適化する。その繰り返しを行っていくことでデジタルツインは実現するんじゃないかと。最近、学外の学術会議などで会う人たちから「デジタルツインなんて昔からやってたよ」とよく言われるんです。でも、彼らの頭の中にあるのは、実験からシミュレーション、再実験まで数日から一週間もかかったりするようなもので、現実世界のタイムスケールを反映していない。多くの現象が一瞬で起こる現実を、タイムラグなく捉えて再現するのがデジタルツインだと思うんです。

佐藤 顔写真佐藤

言葉の定義だけで捉えると、デジタルツインは物理世界をスキャンして情報的に取り扱うということなので、昔ながらのシミュレーションとの違いが見えにくいですよね。僕がデジタルツインに期待するのは、AIとかセンサー、アクチュエータなど、組み合わされる周辺技術の高度化に伴って、表現の仕方もどんどん多様化?高度化していくこと。リアルから取ったデータをバーチャルで生かすのもありだし、その逆にバーチャル上で生まれたものをリアル空間に生かしたり、両者の間を行き来したりすることもできる。そんなイメージですね。

生野 顔写真生野

具体的にはどのようなことが可能になるのでしょう。

佐藤 顔写真佐藤

たとえばバーチャル上で作った自分のアバターが仮想空間を超えてリアルな空間に存在するとか、物理シミュレーションのデータが、街のデジタルサイネージや人が着ている服といった現実のものの上に表現されるとか。そういう物理空間上のものとバーチャルなものの境目をわからなくするのがデジタルツインであり、そういう変革に僕は大いに期待しています。

佐藤 写真
浜中 顔写真浜中

僕は、デジタルツインのイメージを、1回センシングしたデータが実はいろいろなところで使えたり、多くの人でシェアできたりするなど、幅広いメリットを生むひとつの統合した大木のようなものとして捉えています。単一の目的のためにデータを取るのではなく、ひとつのデータをみんなで使えるようにすると、社会にさまざまな影響を及ぼすようになる。すると、その影響をすばやくフィードバックしていくために、生野先生が言うようなリアルタイム性もますます高まっていく。そんな生き生きしたサイクルを持つ大きな仕組みが、どんどん生まれるのではないでしょうか。

デジタルツインは、インターフェースに注目を

喜田 顔写真喜田

自分はデジタルツインについて明確なイメージを持っていませんでしたが、皆さんの話を伺って、デジタルツインの基本的な考え方のひとつは、デジタル側の情報とリアル空間側の情報のインタラクションの頻度を増やすことなんだなと思いました。そんなデジタルツインを技術の側面から考えると、「センシング」と「シミュレーション」、そしてシミュレーションを現実にフィードバックする「インターフェース」の3つで成り立っていると言えるでしょう。センシングはどちらかというとハードウェア寄りの技術で、シミュレーションはAIやモデル化などが深く関わる技術。で、意外に議論されていないのがインターフェースです。とても大切な部分なのに、軽視されているようで気になります。

喜田 写真
司会:野島 顔写真野島

なるほど。インターフェースはどれほど大切な役割を担っているのでしょう。

喜田 顔写真喜田

デジタルツインでは、シミュレーションした情報をリアル側に直感的に理解させ、反応スピードを上げるために重要な鍵を握っているのは、インターフェースなんです。でも現状は、現実空間をそのままリアルに再現することに一番の価値があると思われている。それもすごいけれど、それだけじゃ面白くないし、活用の可能性も広がりませんよね。リアル世界から良いフィードバックを得るうえでもインターフェースってすごく重要な部分なんです。人間の感受性に訴えるクリエイティブな領域でもあるので、自分はすごく興味がありますね。

佐藤 顔写真佐藤

そこは僕も気になります。加えて言えば、インターフェースのあり方として、今は視覚的な映像が重視されていますが、音や振動など他の方法にも注目したいです。たとえばスマホに入ってる振動デバイスを靴に組み込んで道案内したり、目が不自由な人の杖に入れて安全に誘導したり、インターフェースには無限の可能性があります。今、僕が手がけているデバイスのひとつに、「におい」で情報の伝達や表現を行うものがあります。こうした技術が、デジタルツインの中で建築や都市空間に生かされれば、世界はもっと豊かに変わるのではないでしょうか。

豊田 顔写真豊田

僕は、デジタルツインは現実から取得したデータを仮想空間に多様なかたちで記述しなおしたものと認識していますが、このセンターでは、それをどんな時間スケールでどう処理するかという、より広くて深い領域まで拡大して考えてもいいはずです。新しい技術であるデジタルツインを、どう捉え、どう扱っていくか。そうした本質的な議論も深めながら、いろいろなことに挑戦できればと思います。