デジタルツインセンター

東京工科大学 HOME> 特別座談会 第1回

特別座談会 第1回

産学や異分野がクロスオーバーする環境をめざして

司会:野島 顔写真野島

デジタルツインセンターは、日本の大学ではおそらく初めて「デジタルツイン」を名称に冠した施設で、産学連携で活動を展開していくことが大きな特徴のひとつになっています。本日は、その主要メンバーに集まってもらいましたので、まずは自己紹介を兼ねて、各自のデジタルツインとの関わりなどを話してもらえますか。

生野 顔写真生野

私は本学のコンピュータサイエンス学部で、工学的な物理的な現象をコンピュータを使って再現するシミュレーションについての研究を行っています。このシミュレーション技術はデジタルツイン技術の1つの重要な要素技術になるものです。今回、センター長を務めるにあたって何よりも心強いのは、デジタルと建築の融合領域で活躍されている東京大学の豊田先生が本学の客員教授として中心メンバーになってくださったこと。これまでデジタルツインは、特に製造業や建築業などへの適用が注目されてきましたが、豊田先生にはエンタメやメディアアート系の一流の方たちに声を掛けていただき、より魅力的な体制を整えることができました。

生野 写真
豊田 顔写真豊田

そう思っていただけると嬉しいですね。僕はこれまで東大の生産技術研究所に籍を置きつつ、デジタル技術を使った建築デザインなどに取り組んできました。その中で感じたのが、建築デザインで生まれるデジタルデータが建築業界内でしか使われないことのもったいなさ。そこで、自動運転やXRなど他の分野?業界でも利用できるようデータの可読性を高める活動に力を入れ、徐々にスマートシティなどにまで研究の領域が広がってきました。

司会:野島 顔写真野島

なるほど。分野の壁を超えたいという姿勢をずっとお持ちなんですね。

豊田 顔写真豊田

ええ。今回デジタルツインセンターのお話をいただいたときも、考えたのはそのこと。デジタルツインとひとことで言っても、建築や土木のように「静的」に記述した3Dデータを中心に扱う領域がある一方、メディアアートや実空間でのエージェント技術など、より「動的」なデータを用いる領域もあります。僕は両者の隔たりや温度差が気になっていたので、あえて自分の専門である建築とは反対の、動的データを主体とする分野の方に注目しました。デジタル産業のトップランナーとアカデミアの人たちが、うまくクロスオーバーする場にしたいと思ったんです。

豊田 写真
※XR:「Extended Reality/Cross Reality」の略で、現実世界と仮想世界を融合させて新しい体験を創造する技術の総称。

門戸を広げて、思いも寄らぬ化学反応に期待

浜中 顔写真浜中

僕は現在、VR業界でプログラマーとして活動しています。学生時代からVR技術に興味があり、以前は「セカイカメラ」というメタバースの先駆けのようなアプリを作った会社にも在籍しました。今はPsychic VR Labという会社で、たとえば渋谷の交差点に巨大なバーチャルキャラクターを登場させてライブをやるというような、現実の都市空間をメディア化する「リアルメタバース」のプラットフォームを提供する仕事に携わっています。近年のデジタルツイン周辺の動向をエンジニアの視点で見ると、ビジュアルポジショニングシステムによる測位精度の向上など、関連技術が急速に進化していて、ますますホットな領域になってきたことを肌で感じますね。

浜中 写真
喜田 顔写真喜田

確かに技術はどんどん進んでいますね。自分が所属しているHIKKYもVR事業に特化した会社で、VRイベントを主催したりメタバースソリューションを提供したりしています。その活動の根底にあるのは、現実世界にうまく馴染めない人でも幸せに生きていくためのインフラとして、VRやメタバースを役立てたいという思い。これまでは、こうしたバーチャル関連の技術やデバイスをみんなが手軽に使うのはハードルが高かったのですが、技術革新とともにそれが下がってきて、弊社でも3年ほど前に「Vket Cloud」という誰でも簡単に独自のメタバースを作れるサービスを開始しました。こうした取り組みがデジタルツインの範疇に入るのかはわかりませんが、VRやメタバースは確実に人々の身近なものになってきていると思います。

佐藤 顔写真佐藤

僕の会社フロウプラトウで手がけているのは、まさにリアルとバーチャルに領域を跨いだ「体験のデザイン」です。もともと先達が主に「テクノロジー×クリエイティブ」という組み合わせで、メディアアートからWebや広告の制作、ブランディングなどへと発展していくうちに、次第に企業と手を組んで行う活動が増えて事業領域が拡大しました。リアルやバーチャルを絡めて何ができるか、ユニークな体験の社会実装や企業のR&Dサポートを進めています。

司会:野島 顔写真野島

デジタル産業で活躍されている皆さんの興味深い話を伺うと、このセンターから新しいものが生まれる予感をひしひしと感じます。香川学長はデジタルツインセンターにどんな期待をされていますか。

香川 顔写真香川

まずは、デジタルという言葉が入っていれば何でもウェルカムというくらい開口を広くとって、新しいものをどんどん受け入れていけばいいと思っています。デジタルツインだからと言って、コンピュータシミュレーションにリンクするものに限定とか言わないでね。そのほうが絶対に面白いものが生まれますから。本日集まった皆さんのように多様な知識、技術、経験を持つスペシャリストが融合して刺激し合ったりすることで、世の中の人がびっくりするような化学反応が起きることを期待しています。