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咳止めの既存薬が抗がん剤耐性のがん細胞を傷害することを発見 -- 応用生物学部

2021年1月20日掲出

■がん治療に新たな光、承認薬の転用で早期適用に期待
 東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)大学院バイオニクス専攻の今村亨教授、産業技術総合研究所の岡田知子研究員らの研究グループは、咳止め薬(鎮咳剤)として承認されている医薬品「クロペラスチン塩酸塩」が、抗がん剤であるシスプラチンに耐性を獲得したがん細胞を選択的かつ強力に傷害する活性を示すことを発見しました。
 同研究グループでは、抗がん剤耐性がん細胞において高発現するfibroblast growth factor 13 (FGF13)遺伝子が耐性の責任分子であることを見出し、その知見に基づいたがんの治療方法の策定について特許を取得していますが、今回は承認医薬品のリポジショニング(注2)につながる成果であり、早期の治療応用が期待されます。
 本研究成果は、1月15日に国際科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載(注1)されました。

【背景】
 シスプラチンなどの抗がん剤は、細胞の内部に入って遺伝子の複製を阻害したり酸化ストレスを与えることでがん細胞を傷害しますが、これを使い続けることで、抗がん剤の効果が出にくくなる現象が起きます(抗がん剤耐性の獲得)。これはがん治療に困難をもたらすため臨床現場で大きな問題となっています。この問題を克服するため多くの研究が行われてきましたが、「耐性を上回る強い抗がん剤を開発する」ことに主眼が置かれていました。本研究では、従来とは異なるアプローチとして、抗がん剤が効くがん細胞よりも、「抗がん耐性」のがん細胞を選択的に強く傷害する薬剤を探すことを目的としました。


【成果】
 東京大学創薬機構の支援を受け、日本国内で承認されている医薬品のほぼ全てを対照としてスクリーニングを行いました(BINDS(注3)プロジェクト0474)。この結果、狙った活性を持つ承認医薬品として、クロペラスチンという咳止め薬を発見しました。この薬品は、ヒスタミンH1受容体の活性を阻害する働きを有しており、ヒスタミンH1受容体の阻害剤として知られる別の2種の薬剤も、同様に抗がん剤耐性がん細胞を傷害することを見出しました。

[図1] a:子宮頸がん細胞(黒丸)はシスプラチンで強く傷害されるが、そこから生じた耐性細胞(白四角)はシスプラチンが効かない b:クロペラスチンは、シスプラチン耐性細胞(白四角)を強く傷害するが、元の子宮頸がん細胞(黒丸)には効き目が弱い


【社会的?学術的なポイント】
 本研究の成果は、がんの治療に新たな光をもたらす大きな意義を持つと考えられます。クロペラスチンは、これまでも肺がん患者の治療の際に咳止めの目的として併用されていました。今回同医薬品の新たな活性が発見されたことにより、今後は肺がん以外の抗がん剤治療においても、治療成績の飛躍的向上につながることが期待されます。これは「既存薬のリポジショニング」という世界の医薬品研究開発の最新の潮流に沿っているものです。
 また本研究成果をもとに、がん細胞が有する未知の生理機構の解明や、FGF13による抗がん剤耐性機構の解明、さらには新たながん治療薬の創薬シーズにつながることも期待されます。

[図2] 子宮頸がん細胞(下:HeLa S)はシスプラチンで強くアポトーシス(細胞死)が起こるが、シスプラチン耐性細胞(上:HeLa cisR)はクロペラスチンでアポトーシスが起こる

[図3] 抗がん剤に耐性をもたないがん細胞(HeLa S)と耐性を持つがん細胞(HeLa cisR)が混じった状態の細胞集団(mix culture)は、がん患者の生体内のモデル。シスプラチンとクロペラスチンを併用することで、がん細胞を全て殺すことができる


(注1) 論文名「Nobuki Matsumoto, Miku Ebihara, Shiori Oishi, Yuku Fujimoto, Tomoko Okada and Toru Imamura. Histamine H1 receptor antagonists selectively kill cisplatin-resistant human cancer cells. Scientific Reports」(URL https://rdcu.be/cdCmU)
(注2) リポジショニングとは、膨大な時間とコストのかかる新薬開発ではなく、安全性や生産方法が確立された既存薬を、これまでに適用ではなかった疾病に適用して治療に使おうとする考え方。
(注3) BINDS:国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による創薬等ライフサイエンス研究支援の基盤事業である創薬等先端技術支援基盤プラットフォームの略称


■東京工科大学応用生物学部 今村 亨(細胞制御)研究室
細胞に働くタンパク性シグナル分子の理解と利用の研究開発を行っています。これによって新原理に基づく育毛剤などの先端化粧品や、アトピー性皮膚炎の緩和に有効な基礎化粧品や次世代医薬品などの実現が期待できます。さらに、再生医療や歯科治療に画期的な効果を示す新規バイオ医薬品や、がん細胞の抗癌剤耐性を克服する化合物の発見を目指した創薬研究も行っています。
[研究室ウェブサイトURL]
https://imamura-lab.bs.teu.ac.jp

【本件のお問い合わせ先】
東京工科大学 応用生物学部 今村亨教授
Tel 042-637-2149(研究室直通)
E-mail imamurator(at)stf.teu.ac.jp
※(at)は@に置き換えてください


■応用生物学部WEB:
/gakubu/bionics/index.html