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イネ葉緑体の再利用過程を解明-蛍光タンパク質で視るイネ体内の自食作用-

2015年4月8日掲出

要点

  • イネ植物体の葉や根におけるオートファジー(自食作用)の可視化に成功
  • イネの葉緑体がちぎって壊されるオートファジー経路の存在を実証
  • イネの効率的な成長に必要な「体内栄養リサイクル」へのオートファジーの関与を示唆

概要

 東北大学学際科学フロンティア研究所の泉正範(いずみまさのり)助教、同大学生命科学研究科の日出間純(ひでまじゅん)准教授、同大学農学研究科の石田宏幸(いしだひろゆき)准教授らと、東京理科大学理工学部の朽津和幸(くちつかずゆき)教授、東京工科大学応用生物学部の来須孝光(くるすたかみつ)助教らの研究グループは、生物が自らの細胞の一部を分解するための機構で、自食作用とも呼ばれる「オートファジー」が、イネの葉緑体を分解する役割を担っていることを明らかにしました。

 大地に根を張り移動しないまま成長する植物は、根から吸収した栄養素を何度も再利用しながら成長しています。特に、細胞内で光合成を行う「葉緑体」には大量の栄養素が含まれており、植物は、古くなった葉の葉緑体を一度分解して、窒素などの栄養分を新しく作る葉に運んで再利用し、最終的には種や実に蓄えることで次の世代を生み出します。我々がいつも食べている米、つまりイネにおいても、新しい葉の窒素の約半分、穂の窒素の8割ほどが、このようなリサイクル窒素によりまかなわれることが知られていました。しかしその際、古い葉で葉緑体がどのように分解されるのかは長らく未解明のままでした。

 泉助教らは、緑色や赤色の蛍光を発するタンパク質(GFP、RFP)を利用したライブセルイメージング技術をイネ植物体に適用し、イネの生きた葉や根でオートファジーを可視化することに成功しました。さらに、葉緑体の内腔がGFPで光るイネを作出し、葉緑体の一部分だけがちぎられて、内腔の成分が部分分解されるオートファジーを可視化しました(図1)。本成果は、今後イネの体内栄養リサイクルをより詳細に理解し、「効率的に栄養を利用できるイネを作る」といった応用研究への発展を支える成果であると言えます。

本研究の成果は、米国植物生理学会誌Plant Physiologyの2015年4月号に掲載されました。

図1. GFPで視た葉緑体の自食作用
葉緑体がGFPで光るイネの葉を顕微鏡で見た図(右)と、そのGFP蛍光を検出した図(左)。4つの細胞が写っており、大きなGFPの丸が葉緑体、細胞の中心にある小さな粒が葉緑体からちぎられて運ばれたオートファジー(自食作用)の小胞。

研究の背景と内容

 植物は、大地に根を張り水と養分を吸収し、大気からはCO2を取り込み、太陽光エネルギーを利用した光合成を行うことで成長します。このような固着生活を営む植物は、私たちヒトを含む動物のように、お腹が減ったからといって食べ物を探しに行くことは出来ません。ゆえに植物は、一度取り込んだ栄養素を何度も再利用しながら成長する「体内栄養リサイクル」の機構を積極的に活用しながら生きています。秋になると多くの木々が紅葉し、その後落葉しますが、その際にも葉の養分の多くは幹側に回収されているのです。このような植物の能力は、農業生産とも密接に関わっています。例えば、植物が最も必要とし、肥料としても与えられる栄養素は窒素(N)ですが、イネが新しい葉を作る際に使う窒素の約半分、食用となる穂の窒素の約8割が、リサイクル窒素でまかなわれることが20年ほど前から報告されています。このような体内栄養リサイクルにおいては、細胞内で光合成を担う「葉緑体」が最も重要なリサイクル源となります。それは葉の全窒素の約8割が含まれるなど、大量の栄養素が葉緑体に分配されているためです。しかしながら、葉緑体タンパク質がどのような仕組みで分解されてリサイクルされるかは、長い間謎でした。

 オートファジーは、植物に限らず、ヒトを含む動物や酵母といった「真核生物」に分類される生物が広く持っている機構で、細胞の一部を小胞で隔離し、その内部を分解するための機構です。ノーベル医学?生理学賞の候補に名前が挙げられ、3月25日にガードナー国際賞の受賞が発表された大隅良典教授(現東京工業大学)らが、1993年に酵母でオートファジーに必須な遺伝子群を同定したのをきっかけに、そのメカニズムや機能に関する研究は爆発的に進展し、現在、オートファジーは多くの研究者が注目する生命現象の一つとなっています。泉助教、石田准教授らは、モデル研究植物であるシロイヌナズナを利用して、オートファジーが葉緑体の分解に関わることを世界に先駆けて明らかにしてきました。今回泉助教は、それらの研究で培われた蛍光タンパク質を用いたライブセルイメージングの技術をイネ植物体に応用し、生きたイネの葉や根においてオートファジーを可視化することに成功しました。さらに葉緑体の内側である内腔(ストロマ)をGFPで可視化したイネを作出し(図2)、葉緑体の一部がちぎられて内腔成分が部分分解されるオートファジーの存在を示しました(図3)。このような分解は、植物にとっての飢餓状態となる暗処理(光を遮る)した葉で活性化したことから、イネの体内栄養リサイクルを担っていることが考えられます。以上の成果により、長年の謎であったイネ葉緑体のリサイクル分解にオートファジーが関与することが直接証明されたと言えます。

 今回の成果は、泉助教、石田准教授らが、モデル研究植物であるシロイヌナズナで解明してきた基礎的成果を、重要作物であるイネを用いた応用研究に発展させるための橋渡しとなる成果でもあります。また本研究は、本学学際科学フロンティア研究所、生命科学研究科、農学研究科、東京理科大学理工学部及び東京工科大学応用生物学部の専門が異なる研究者間の連携により達成されました。

図2. 葉緑体がGFPで光るイネ
今回使用した葉緑体GFP発現体(右)では、青色の光を当てると発せられるGFPの蛍光を植物体から直接検出することが出来る。

図3. 葉緑体オートファジーの可視化
葉緑体がGFPで光るイネの葉を、共焦点レーザー顕微鏡で観察した図。緑が葉緑体GFP蛍光、マゼンタが葉緑体が元来持っている自家蛍光(クロロフィル蛍光)を現している。右の模式図で示したように、葉緑体からちぎられたオートファジー小胞(RCBと命名)が分解されるのを防ぐ阻害剤を処理することで、それらが液胞内に多数蓄積する。重ね合わせ画像では、RCBが葉緑体内腔のGFPだけを含み、葉緑体内部の膜にあるクロロフィルは含んでいないことが分かる。つまりRCBは、葉緑体内腔だけが部分分解される経路である。

今後の展望

研究の背景で述べたように、イネの体内栄養リサイクルは米の生産とも密接に関わる機構です。今後、本成果を基盤として、イネの植物体全体としての体内栄養リサイクルにおけるオートファジーの重要性が明らかになっていき、より効率的に栄養をリサイクルできるイネの作出につながって行くことが期待されます。

論文の詳細

著者:Masanori Izumi, Jun Hidema, Shinya Wada, Eri Kondo, Takamitsu Kurusu, Kazuyuki Kuchitsu, Amane Makino, Hiroyuki Ishida
表題:Establishment of monitoring methods for autophagy in rice reveals autophagic recycling of chloroplasts and root plastids during energy limitation
雑誌:Plant Physiology
巻貢:167: 1307-1320
DOI:10.1104/pp.114.254078

■応用生物学部WEB
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