「チモキノン」がアルツハイマー病に有効であることを発見
東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)応用生物学部の鈴木郁郎助教らの研究チームは、ニゲラサチバの種子油に含まれる「チモキノン※1」が、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβの神経細胞毒性を保護する作用があることを発見しました。同チームが初めて開発に成功した、脳に係る疾患の解明や薬の効果を調べるのに有効な、脳回路モデルの構築および測定技術※2を用いた検証によって明らかになりました。
背景と目的
アルツハイマー病の原因因子の一つに老人斑※3があり、その主要な成分はアミロイドβ蛋白質からなっています。このアミロイドβ蛋白質の凝集が神経細胞への毒性を持ち、アルツハイマー病を発症させる主な原因と考えられています。そこで、アミロイドβ蛋白質の神経細胞毒性を保護する候補分子として「チモキノン」の作用を、開発した技術の一部を用いて検証しました。
成果
図1 チモキノンによるシナプス昨日低下の保護
図2 細胞数を制御した神経回路モデルの構築技術
アルツハイマー病の最重要領域である海馬および大脳皮質の2次元回路モデルに、最も毒性の高いアミロイドβ1-42とチモキノンを同時投与したところ、アミロイドβ1-42のみの投与に比べて有意に細胞死を防ぎ、活性酸素の発生量の軽減とミトコンドリア膜電位の減少などの細胞毒性を抑制する効果が見られました。また、神経ネットワークの情報伝達場であるシナプス機能および神経活動の低下を軽減させる効果が認められました。これらは、チモキノンがアミロイドβの神経細胞毒性を保護する効果、ひいてはアルツハイマー病に対して効果があることを示しています。
社会的?学術的なポイント
今回新たに開発した技術は、脳に係る疾患を明らかにするのに有効な方法です。急速な高齢化社会の進行にともない、アルツハイマー病患者の増大は社会的な問題になっています。本研究成果は、チモキノンによるアミロイドβ毒性を保護することを示唆するもので、チモキノンの摂取は、アルツハイマー病の予防につながることが期待されます。
また、脳回路モデルを自在に「創る技術」と「測る技術」を、疾患患者からのヒトiPS細胞由来ニューロンへ応用すれば、動物実験を代替えするヒト評価モデルとなり、脳神経疾患の解明や薬の開発が飛躍的に加速されることが期待されます。さらに、細胞から組織モデルを自在に創る構成的研究は、記憶などの高次機能を創発する最小ユニットの解明や多細胞組織の動作原理の理解を可能とし、新しい生命科学を立脚するアプローチとしても期待されます。
本研究成果は、第8回ヨーロッパ神経科学会、第35回日本神経科学会大会および日本薬学会第133年会などで紹介されたほか、科学雑誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載されました。また研究の一部は、科学研究費補助金※4およびJST研究成果最適展開支援プログラムにて行われました。
※1 チモキノンは、ニゲラサチバの種子油に含まれる成分。中東地方では、ニゲラサチバの種子は健康食として食べられています。チモキノンに関する抗酸化作用および癌や糖尿病等に対する効果を示した論文も多数報告されています。
※2 一次元から生体環境を模倣する三次元脳回路モデルまでを自在に「創る技術」と、創った脳回路の電気的機能(活動電位、神経伝達物質、ポストシナプス電流)をチップ上で「測る技術」。「創る技術」は、科学雑誌「Lab on a chip」、「RSC Advances」、「Analytical Science」などに、「測る技術」は、科学雑誌「Biosensors and Bioelectronics」にそれぞれ掲載されました。
※3 老人斑は、神経細胞毒性の高いアミロイドβ1-42の凝集体が細胞外に沈着したものであり、アルツハイマー病の早期にみられる脳内の現象である。
※4 科学研究費補助金No.21800016「アミロイドβが及ぼす神経細胞機能への構成的理解」およびNo.24700485「3次元脳回路モデルの再構成技術と神経伝達物質のリアルタイム計測技術の開発」
■応用生物学部WEB
/gakubu/bionics/index.htmll
研究内容の詳細などこの件に関しての報道機関からのお問い合わせ先
■東京工科大学 応用生物学部助教 鈴木郁郎
Tel.042-637-2698 / E-mail. isuzuki(at)stf.teu.ac.jp
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