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30秒で1400℃! 新しいレーザー加熱試験法って?

 
2024年3月22日掲出

工学部 機械工学科 大久保 友雅 准教授

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太陽光を利用してレーザー光線をつくる研究など、“カッコイイ”(と自分で思える)研究に取り組んでいる大久保先生。今回は、次世代航空機エンジンの材料として期待されるCMCのレーザー加熱試験方法の研究を中心にお話しいただきました。
過去の掲載はこちら→ /topics/2015.html?id=24

■先生の研究室では、どんなことに取り組んでいるのですか?

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私の研究室「光?エネルギー研究室」では、大きく3つの研究テーマに取り組んでいます。ひとつは、太陽光励起(れいき)レーザーです。太陽光を集めてレーザーに変換して利用しようというもので、随分と前ですが前回の取材(/topics/2015.html?id=24)でお話ししたものです。今は世界一の効率を中国に奪われてしまいましたが、また世界一の座に返り咲くために色々と頑張っています。
また、その取材時に、CFRP切断に関する話もしたかと思います。これを応用してレーザーで物を切ったり貼ったりするレーザー加工技術があります。それをコンピューター上でシミュレーションして、未知の現象を解明するという研究にも取り組んでいます。これが2つめの研究テーマです。
「効率世界一」とか「未知の現象を解明」とか“カッコイイ”でしょ(笑)。 そして、今一番力を入れている研究が、新たに取り組み始めた次世代航空機エンジンのための世界で唯一のレーザー加熱システムです。これも聞くからに“カッコイイ”感じでしょ?(笑)。今回はこの研究テーマを取り上げて、ちょっと真面目にお話ししますね。

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今、取り組んでいるレーザー加熱の研究は、本学にあるセラミックス複合材料(CMC)センターとの共同研究です。まず、CMCとは何かというところから簡単に説明しましょう。セラミックスというのは、お茶碗みたいな焼き物を想像するとわかりやすいです。焼き物は焼くので、熱に強いですよね。そして、軽いという特長もあります。つまり、軽くて熱に強い、とても素晴らしい素材です。しかし、残念なことに、落としたりすると割れてしまいます。そこで、割れないように強くしたものがCMCです。

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材料はSiC(炭化ケイ素)というもので、まずはそれを使った糸(ファイバー)を作り、編んで布のようにします。それをさらにSiCセラミックスで固めます。コンクリートの中に鉄筋を入れることで引っ張りに対して強くする鉄筋コンクリートと同じく、ファイバーが入っているので引っ張りに強くなるわけです。
CMCセンターには、CMCに釘を刺すデモがあります。お茶碗に釘を刺すと当然割れますが、CMCは釘を刺してもファイバーを編んだ状態なので、穴はあくけれど割れません。つまり、軽くて熱に強く、しかも割れない材料だということで、航空機エンジンの新しい材料として期待されています。ちなみに、なぜ航空機エンジンかというと、エンジンは高温になる部分が熱ければ熱いほど効率がよいので、高耐熱な材料を使うほど高効率なエンジンが作れるのです。

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いよいよ本題ですが、私の研究室では、そのCMCという新しい材料を試験する方法の開発に取り組んでいます。航空機のエンジンに用いるとなると、非常に信頼性が高くないといけません。釘を刺しても割れないからOKとはいかないのです。例えば、航空機のエンジンの壁にCMCを使うとしたら、エンジンに面する側は熱いけれど、その裏側は冷たいという状況が起きます。あるいは、飛んでいるときは熱いけれど、降りてくると冷えるため、温めて冷えて、温めて冷えてを繰り返すという状況もあります。そういう色々な状況で試験をして、この材料は大丈夫だということを証明しないと実用化はできません。その証明をきちんとできるようにすることはもちろん、既存の試験方法よりもっと高速で試験できるようにする方法の研究に取り組んでいます。

現状の試験が時間を要するのには、理由があります。今、温めるときは単純に炉の中に入れています。例えば、クッキーを焼くとき、まずはオーブンを予熱して、温めてから材料を入れますが、オーブンの予熱に時間がかかりますよね。炉の場合も同じで、炉内の空間全体を温めないといけないため、非常に時間がかかるのです。
また、温めて冷やして、温めて冷やしてという試験(加速試験)をしようと思うと、せっかく長い時間をかけて温めたのに、次は扉を開けて冷やし、その次はまた長い時間をかけて炉内を温めて…ということをしなければなりません。そこで、もっと瞬時に温めて瞬時に冷えるということをする方法はないかと考え、レーザーを用いることになったわけです。レーザーであれば、それを当てると一気に温めることができ、オフにすると一気に冷え、再びレーザーを当てるとまた瞬時に温めるということができます。そういうレーザーを使った加速試験を実現しようとしています。

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また、先ほど話したように、片側が熱くて、その裏側が冷たい状況をつくることは、炉の中では難しいですよね。ですがレーザーであれば、片側にだけあてると、その反対側は冷えたままです。レーザーをあてたところだけを熱くできるので、そういう温度分布の制御ができるようにしようと取り組んでいます。
こうしたレーザーによって材料を温めるというレーザー加熱の研究は、NASAなどがすでに手がけていました。ただ、私達はそれを超える“新しい”試験方法の開発に取り組んでいます。

■“新しい”試験方法ということですが、具体的にはどういう技術が使われているのですか?

“ガルバノスキャナ”というレーザー光をピンポイントで照射するための制御装置があります。これはさまざまな精密加工技術を支える機械で、身近なところでは3Dプリンターにも採用されているものがあります。レーザーをピンポイントで照射し、超高速に動かせるので、多種多様な形に加工できるのです。

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実は私の研究室では、ガルバノスキャナを用いた3Dプリンターのシミュレーション研究も手がけています。そういう技術があることを知っていたので、ガルバノスキャナを使えば、塗り絵のように自由に、温めたい場所にレーザーを高速照射できると思いついたわけです。また、温めた場所の一部が冷えてきたら、そこだけ塗り絵を濃くすることで、その部分のみ温度を上げられます。逆にレーザーによる塗り絵を薄く塗れば、温度はそんなに上がりません。つまり、レーザーによる塗り絵の濃淡で温度を制御できるわけです。
NASAなどが行った研究では、丸いレーザビームをレンズ等で四角くして四角い領域を温めていましたが、それだけでは周辺が冷えてきたときに周辺をさらに温めるなど、その状況に応じた加熱が出来ません。しかし、私達の技術であれば、塗り絵の濃さを状況に応じて変えれば良いだけです。そこが“新しい”ところです。

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もうひとつ付け加えると、彼らはCO2レーザーを使っているので、水蒸気がたくさん発生するエンジン内では、レーザーがそれに吸収されてしまうという問題があります。一方、私たちが採用したファイバーレーザーは水蒸気を通るので、水蒸気がある中でも温めることができるのです。
というわけで、そのファイバーレーザーと、塗り絵で温度が制御できるガルバノスキャナとを組み合わせた、新しい加熱方法の研究開発に取り組んでいます。ちなみに、この加熱方法をSLT法と名付けました。セレクティブ?レーザー?サーモレギュレーションの略で、日本語にすると「選択的温度調整法」です。選択した部分だけレーザーをあてて温度を調整できるということです。
こんなふうに、今まで手がけてきたレーザー加工の研究を全く別のジャンルに応用したというところが、今回、“新しい”と胸を張れるところかなと思います。

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■SLT法はかなり完成に近づいている印象ですが、今、どのような課題があるのですか?

SLT法は、試験では約30秒で一気に1400℃くらいまで温めることが実現できています。今の航空機エンジンは約1000~1050℃の耐熱材料でできているのですが、CMCを使うと1400℃ぐらいまで耐えられると言われています。ですから、本当に1400℃で耐えられるかどうかということで、1400℃を目標温度に試験し、成功しています。
また、試験の時間短縮という面で、加熱?冷却を繰り返すことはできるようになりました。ただ、問題はそれをどう調整するかです。今はそこが大きな研究対象になっています。結局のところ、レーザーでの塗り絵をどう塗るかということです。例えば、四角く温めたい場合、縦に塗りつぶしていくのか、横に塗りつぶしていくのか、それとも渦巻きを描く形で塗りつぶすのか、どれが一番効率のよい塗り方なのかが分かっていません。ですから、レーザーをどう動かすとどんな温度分布になり、どういう塗り方であれば自分たちが要求するものに近づくのかというところが、現状の研究課題です。

そこで今取り組んでいるのが、AIとデジタルツインを使って、レーザー加熱の照射条件を推定し、それをもとにレーザーをあてるようにしようということです。デジタルツインとは、フィジカル空間(実際の世界)の現象をサイバー空間(デジタルの世界)に双子のように再現する技術のことです。
まず、実際の現場(フィジカル空間)でレーザーをあてて試験したい物の温度を計測して、何℃になっているかを確認します。その情報を今度は、デジタルの世界(サイバー空間)に持っていきます。そこでシミュレーションやAIで現象を再現し、それなら次はこっちにレーザーをあてようということを決めて、それをレーザーにフィードバックし、実際にレーザーを動かしてあてます。そして、また温度がどうなったかを計測し、その情報をサイバー空間に持っていってシミュレーションやAIで現象を再現し…ということを繰り返します。
ですから人間が温度の計測結果をもとに、ここの温度が低いからここにレーザーをあてようと考えるのではなく、シミュレーションとAIを使って、AIにどうしたらよいかを学ばせ、最終的にAIが判断してレーザーを適切に動かすことを目指しています。

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これには現状、課題が2つあります。ひとつは、普通のシミュレータで3次元空間をシミュレーションするには、かなり計算に時間を要することです。ですからフィジカル空間で温度を測定して、それをサイバー空間で計算するといっても、普通にやると計算が重くて、なかなか進みません。そこをどう軽い計算にするかというのが課題のひとつです。

もうひとつは、今の状態を見て、次にどうレーザーをあてるのがよいかをAIに判断させるための学習についてです。AIの学習には、実際に計測した温度のデータを使って学ばせるのが本来ですが、そのために毎回、1400℃にもなるレーザーをあてるというのは、正直危ないです。そこでAIがレーザーをこっちに動かそう、ここが温まったら次はこうするとよいのかな、ダメなのかなということを、シミュレータというデジタル空間の中で試行錯誤しながら学ぶ、強化学習を行っています。AIが試行錯誤して学習していき、最終的にはこうするとよく温まるということをAI自身が学んでいきます。今、そういうAIを開発しているところです。

■研究室の学生は、この研究にどのように関わっているのですか?

例えば、今、お話ししたAIに関しては、全て学生がコードを書いています。もちろん指導やアドバイスはしますが、基本的には学生自身で取り組んでもらっています。そもそもこの研究テーマを選ぶ学生は、機械工学科の中でも特にAIを活用することに前向きな学生ですからね。研究室では、AIの勉強に役立つ本を教えたり、応用するとよいプログラムを伝えたりと、導入を用意していますし、わからないときは気軽に相談できる環境にしています。AIの話をしたら、やってみたいと自ら言って始めていますしね。その学生は、この春から大学院に進学します。
また、実際に実験をして温度分布を計測し、レーザーを動かす部分を担当している学生は大学院生です。そして、その制御に関することを別の4年生が担っています。その学生も春から大学院に進学します。ですから、みんなモチベーションが高いです。
こうした研究は、最先端ですし誰もしたことのないことです。最先端は“言ったもん勝ち”な世界ではありますが(笑)、新しいことに挑戦するわけですから、何かしらの成果は出ると思います。それを学生にも経験してもらいたいですね。

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■今後の展望をお聞かせください。

レーザー加熱がうまくいって、SLT法がCMCの実用化につながり、さらにこの試験方法が国際基準になったらいいなとは思っています。一方で、全く別のことも考えています。もともと、この技術は3Dプリンターの加工技術を応用したという話をしましたよね。なので、今度はまたこの技術をレーザー加工に戻せないかと思っています。
AIがレーザーのあて方を色々と勉強すると、こうあてるとこういう現象が起こるということがAI自身でわかるようになるので、3Dプリンターでも溶接などの加工分野でも幅を広げられるかもしれません。

また、うちの研究室では、学生が学外で発表して受賞することが少なくありません。先日も、レーザー学会の優秀ポスター賞を大学院生が取ってきました。大学コンソーシアム八王子の学生発表会は、何年も連続で何かしら賞をいただいています。
学生は私が褒めても説得力がないみたいですが(笑)、学会など学外で発表すると、他の人が褒めてくれるので、それが彼らの自信につながっているようです。今この研究室には、CMCという最先端素材のテーマもありますし、航空機エンジン、太陽光励起レーザー、宇宙といったカッコイイ単語が並んでいますから、学生も夢を持てるのではないかと思います。それをきっかけに、少しでも学生のやる気を伸ばしていければいいなと思いますね。最終的に頑張っている自分がカッコイイと思えるようになってほしいんです。そういう自分なりの美学を持ってほしい。一人でも多くの学生がそう思えるようになれば、教育としては成功だと思っています。

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これまでの大久保研の受賞の数々


■研究の面白さや魅力とは何だと思いますか?

学生にいつも言っていることですが、 “思った通りにできた” は、必ずしも良いことではないのです。“思った通りにできた”は、思った通りだから新しくもなんともないよと。思った通りにいかないことは、ネガティブに捉えられがちですが、その理由を考えて、原因がわかると、新しい発見につながります。
自分が今知っている世界と、実際の世界の広さは全く違います。自分が知っている世界で思った通りにいかないということは、その外側を見つけた、つまり自分の知らない世界を見つけたということです。それって、本来はすごくポジティブなことではないですか? そういう未知との遭遇みたいなところが、研究の面白いところですね。

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■最後に受験生?高校生へのメッセージをお願いします。

せっかく大学に入ったのにもったいないなと思うのは、大学には色々なチャンスが転がっているのに、挑戦しない学生がいることです。自信がないからなのか、自分なんかが行ってもダメだろうといった姿勢の人もいます。でも、それは非常にもったいない。例えば本学には、ロボコンやEVに挑戦するプロジェクトもありますし、研究はもちろんサークルや部活、海外留学やボランティアとチャンスがたくさん転がっています。できるだけ色々なものを拾って、自分が楽しいと思うことを見つけてください。あちこち手を伸ばして触ってみないと、わからないことがありますから。先ほどの話とも共通しますが、自分の知っている世界はとても狭いです。知らない世界に触れて、自分の視野を広げて行くことが大事だと思います。
■工学部:
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