卒業研究は様々な経験ができるチャンス!
2023年12月22日掲出
医療保健学部 臨床工学科 安藤ゆうき 助手
本学の臨床工学科の卒業生である安藤先生。もともと物理や数学が得意で、両親が医療従事者と教員だったことから、人の役に立つ仕事をと、医療と工学を融合した臨床工学技士を目指したそう。病院での臨床を経験後、母校へ戻り、現在は研究と教育に取り組んでいます。今回は、安藤先生の研究内容や教員としての思いなどをお聞きしました。
■先生はどのような研究に取り組んでいるのですか?
末梢の血管を簡易的に電気回路で表したウインドケッセルモデルを使って得られる時定数を用いた、微小血管病変の新しい診断法を開発しようと取り組んでいます。時定数とは、収縮したり拡張したりする血管の中の内径、血液の粘性、血管壁の硬さなどを総合的に数値化したもののことです。血管の内径や硬さを反映しているということは、もし血管が収縮して循環が悪くなっていた場合、それが時定数の値に反映されます。ですから、これをきちんと血液が循環されているかどうかを知る指標にできれば、例えば血管の中がどんどん狭くなる動脈硬化など、血管の病変にも気づくことができる、ひとつの診断法になるのではないかと考えています。現状、そうした病変を知るための診断方法はいくつかあるのですが、病院に行かなければ受けられない検査ばかりです。例えば、エコーを用いたものや、血圧計を手首と足首に装着して、心電図などを測る機械を用いて脈波伝播速度を測り、その数値で動脈硬化を見るようなものもあります。それらは高価な医療機器ですし、自分で測れるものではありません。そこで私は、より簡単に測定ができ、侵襲性が少ない、つまり患者さんへの負担が少ない診断方法を開発しようと取り組んでいます。最終的には、簡単に装着できて、日常的に在宅でも測定できる装置をつくることを目指しています。
この研究で行った実験についてお話しすると、時定数を求めるには動脈圧脈波と末梢容積脈波という2つの脈波を調べる必要があります。ところが、動脈圧脈波を測る機械と末梢容積脈波を測る機械は、周波数特性が違っています。つまり、それらを同時に測定するには、周波数を自分で合わせる必要があるのです。そこで今回、私は装置を自作し、両方の周波数特性を揃えて測るということをしました。動脈圧脈波も末梢容積脈波もそれぞれ測定する方法がいくつかあるので、一つずつ試してみて、どれが時定数測定に最適な方法かを検証したのです。結果、動脈圧脈波は手首の橈骨(とうこつ)動脈上に圧脈波センサを固定して計測する方法、末梢容積脈波は指先に光透過センサを当てる方法が適していると分かりました。
今回、利用したウインドケッセルモデルは、とても簡単な等価回路であるため、細部まで表現できていない部分も多いのですが、まずは時定数が測定できたというところです。今後は、計測した時定数の値が、本当に血管の変化を反映しているのかどうかを確かめようと進めています。例えば、温水や冷水に手をつけると、冷水では血管が収縮し、温水では血管が拡張するので、温水?冷水につける前と後で時定数を測ってみて、値に違いがあるかといったことを、学生にお手伝いしてもらいながら調べているところです。
■学生の卒業研究も先生のご研究テーマに関連するものですか?
そうですね。学生の卒業研究では、動脈圧脈波を非侵襲で簡易的に取得する新しい方法を考えてもらっています。先ほどの私の研究で、動脈圧脈波の測定には、橈骨動脈上に圧脈波センサを固定して測る方法が適していると分かったのですが、実はそれには少し測定技術が必要で、きちんと手首の脈波が拍動している部分に測定機器を当てないと取得が難しいのです。何も知らない初心者でも扱えることが目標ですから、測定技術が必要になるという点は課題です。そこで、もっと簡単に動脈圧脈波が測れるようにできないかという研究を学生としています。そのひとつの方法として、動脈圧を光反射センサで測定する研究に取り組んでいます。例えば、光反射センサの光を、より血液のヘモグロビンに吸収しやすい色に変更したり、センサを皮膚に押し当てる力を変化させたりする研究をしています。今回は、卒研の一環で学生がセンサの光の色を緑色に変えて、橈骨にセンサを当てて動脈圧脈波を測るという装置を自分で作りました。もともとは、私も光センサで動脈圧脈波を測る研究をしていたのですが、そのときは赤外光を使っていました。ところがそれでは、赤外光の体内で広がる範囲が大きく、太い橈骨動脈だけでなく、細い動脈などの影響も受け、うまく時定数の測定ができなかったのです。そこで学生に緑色の光センサを使った装置を作ってもらい、実験してもらいました。緑色にはヘモグロビンの吸収が高いという特徴があり、表面に近いところにある橈骨動脈だけの変化が捉えられるのではないかと思い、実験した形です。結果としては、脈波の計測はできましたが、緑色は吸収が強い分、逆にきちんと表面にある脈波を捉えないと、正確な波形を測定することが難しく、技術的にコツが必要という問題が出てきました。これからこの課題をどう乗り越えようかと検討しているところです。
センサを押し当てる力によっても変わってくるので、血管を押しつぶさない程度の力で巻くのがよいのか、本当に表面だけに当てる方が上手く測定できるのかといったところも色々と工夫をし、固定方法なども考えながら実験を進めています。
学生は、自分で組んだ装置で欲しい情報が測れるようになることがうれしいようですし、こうした卒研での取り組みが国家試験の勉強につながっているというメリットもあります。というのも、自分たちで装置や機械を作るときには、色々な回路が必要になります。それら一つひとつを学び、それぞれがどう関係しているのかが分かることで、より工学的な理解が深まり、国試対策になるのです。例えば、どれくらいの出力を出したいから、抵抗はどのくらいにしようといった値をどう算出して設定するかは、学生たちで考えて作ってもらいます。それと同じような問題が国試でも出題されますから、手を動かして学びながら理解していくという点では、かなり実践的だと思います。
■学生を指導するうえで、心がけていることはありますか?
私は、学生が他の先生には話しづらいことも私になら話せるという教員を目指しています。私自身がこの大学の卒業生で、学生時代に自分が思っていたことと今の学生が思っていることが近いということもありますし、置かれている状況や大変な時期も分かりますから。また、学生と話していると、教員に良いところを見せたいという気持ちがあるようですが、私とは年齢が近いからか、他の先生方よりは気を張らずに接することができるという面はあるようです。そういう学生に近い目線で考えることは、今後も大切にしていきたいと思っています。また、卒研では、トラブルから学ぶことも多々あります。研究はうまくいかないことや失敗することが多いです。ですが大学では失敗しても、何度でもやり直せますし、それは今しかできないことだと思います。学生のうちにうまくいかないことをたくさん体験して、そこから次のステップはどうするのかを考えて取り組むという経験を、教員としても学生にさせてあげたいと思っています。臨床現場に出ると、簡単には失敗できません。もちろん何かしらトラブルは起きますし、失敗することもあると思いますが、それまでに失敗した経験がないと、心が折れてしまうケースもあります。大事なことは、何かあっても次にどうするかという対応策を考えて、行動できるかどうかです。
さらに、問題点をどう調べるかということも大切です。例えば、うまく波形が出ない時は、一箇所ずつ確認して、どこからおかしくなっているのか、原因がどこにあるのかを絞り込みながら原因箇所を探していきます。そういう原因追求の方法を知ることやそういう考え方ができるようになるためのトレーニングとして、卒研を経験できればと指導しています。
■今後の展望をお聞かせください。
現在、私は本学の教壇に立ちながら、大学院で学位取得を目指して研究しています。ですから、博士号を取るということが展望としてあります。研究においては、市販されている末梢循環を測定できる機械で測定した値と、私の研究で得た値との比較をしようと考えています。それにより、自分たちの研究で得られた値が正確なものなのかどうかということを調べていきたいです。そして将来的には、医療機関と協力して、実際に患者さんに測ってもらうことができればと思っています。
また、私自身、研究を進めて結果を出していきたいですし、国際学会で発表するなど挑戦している姿も学生に見せたいです。本学は入学後、すぐに英語のクラス分けの試験があるのですが、私は英語が苦手で一番下のクラスでした。そんな私が今年度は、オーストラリアでの国際学会に参加して、英語で発表したのです。苦手でもやろうと思えばできるとわかったので、そういった希望を学生に示すことができると、うれしいですね。例え苦手でも、挑戦してみようという気持ちは大事だと思うので、そういう面を学生に見せていきたいのです。学生には、自分の可能性にふたをしてほしくないですからね。
■最後に受験生?高校生へのメッセージをお願いします。
これは私の本学科での経験に基づく話ですが、ここには学生一人に対して時間を惜しまず、質問に丁寧に答えてくださったり、メンタルの部分でもネガティブ思考を前向きにしてくださったりする先生方が揃っています。私自身、学生時代はもちろん卒業後も先生方にたくさん助けてもらってきました。本学科の先生は頑張っている学生を一生懸命、応援してくださる方たちばかりですから、私もそういう教員の一人になれたらと思います。また、母校に戻って感じることは、私が学生だった頃よりも、学ぶ内容が非常に進化しているということです。扱う内容も広くなっていますし、今は臨床経験の豊富な先生方がたくさんいるので、現場の話を交えながら詳しい部分まで解説してもらえるところは、正直、羨ましいほどの環境です。とても良い大学だと思いますから、どこに進学しようかと迷う時は、ぜひ選択肢の一つに入れてもらいたいですね。
それから、受験する前に大学を見に行くことをおすすめします。私自身、この大学の決め手は、実際にオープンキャンパスに来て知った、駅からの近さや実験室?装置等の充実、建物の格好良さなどでした。実際に見に来ると、学生たちの雰囲気や教員と学生との距離感も見えてきます。本学科は特にとても楽しそうに学生と会話している先生方が多いので、そういう様子も見ていただきたいですね。
■医療保健学部:
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