大学で積み重ねた学びがつながる瞬間
2023年6月23日掲出
応用生物学部 西野智彦 教授
赤城乳業株式会社 安田知佳(2022年3月卒業)
2022年春、ガリガリ君などで知られる赤城乳業に就職した安田さん。在学中は西野先生の「応用微生物学研究室」に所属し、キムチの研究をしていたそうです。西野先生とともに当時を振り返りながら、大学時代に学んだことや経験が、現在にどう活かされているのかをお話しいただきました。
■安田さんが西野先生と最初に出会ったときの印象や、西野先生の研究室を選んだ理由を教えてください。
安田さん(以下、安田):最初は「微生物学」という西野先生が担当されている1年生の授業でしたね。先生の教え方がすごく面白かったので、よく覚えています。『もやしもん』というマンガに出てくるキャラクターを引用して微生物の説明をしてくださって、とても入りやすかったんです。それが微生物に親しむきっかけになったと思います。西野先生(以下、西野):そうそう、あれは伝わりやすいですよね。
安田:大学時代の友達にも西野先生の授業で何が印象に残っているかを聞いてみたら、みんな「もやしもん」とか「サッカロマイセス?セレビシエ(出芽酵母)」という長い名前が出てきたので、すごく印象深かったのだと思います。そういう授業をいくつか受けて、面白い先生だなと興味を持って、研究室の見学に行ったんです。先生と直接お話しして、自分もこの研究室で研究したいなと思いました。
西野:学問的な興味はどうだったの?
安田:漠然とですが、食品系を学びたいとは思っていました。そんなときに「微生物学」の授業で、数マイクロという小さい生き物が身の回りにいて、大きな影響をもたらしているということを知って。小さな微生物がたくさん集まって動くことで、モノを発酵させて風味をつけたり、逆に悪い方の効果を出してしまったりと、育て方でも全然違うというところから興味を持つようになりました。
■西野先生は、安田さんにどのような印象をお持ちでしたか?
西野:本学は、「宇宙の学校」という八王子市とJAXAの協働イベントのお手伝いをしていて。主に応用生物学部の1年生が、その運営を手伝うことになっています。安田さんもそのお手伝いをしていたのですが、すごく子どもたちからの評判が良かったんですよ。同じイベントのスタッフとして働いていた上級生たちが、「あの人の名前は?」「来年はあの人にも手伝ってもらおうよ」と指名されるくらいでした。というのも安田さんは、明らかにコミュニケーション能力が高いんです。とても楽しそうに、前向きに取り組んでいたのが、印象的でした。安田:このイベントは、応用生物学部の1年生全員がお手伝いすることになっていて、それで参加したのですが、想像以上に楽しかったです。子どもたちに、私たちが知っている事象をどうしたら分かりやすく、楽しく学んでもらえるかを考えることが面白くて。例えば、目の前で気球を1つ、浮かせただけで、子どもたちは大喜びしてくれます。それを見て、私も一緒に楽しんでいました(笑)。
西野:八王子市役所の人たちからの評価もとても高かったんですよ。その場の雰囲気や関わる人たちを明るくすることは、誰にでもできることではないですから、持って生まれた天性なんでしょうね。
安田:そう言っていただけると、うれしいです。
■安田さんが東京工科大学を選んだ理由は?
安田:高校時代は、美術大学を目指して受験勉強をしていたので、理系の大学は視野に入れていませんでした。ただ、東京工科大学の「実学主義」には、惹かれるものがあって。私はモノづくりが好きだったので、何かをしたい、つくりたいという思いがすごく強かったんです。この大学は、自分で動いて、学べる環境があって、何かと参加できる機会がたくさん用意されているところだなと感じていて。研究もありますし、さっき話していた「宇宙の学校」などもそうです。自分が学んでいる学部学科から派生したものをプラスアルファで経験できますし、色々な資格を取得できるサポートがあるという面も魅力に感じて、受験しました。西野:応用生物学部を選んだのには、どんな理由があったの?
安田:単純に食品分野が面白そうだなという感じで。それと、高校時代から微生物のサイトは見ていたんです。というのも、妖怪が好きで。目に見えない生き物たちが環境に影響を与えるというのは、ある意味、妖怪っぽいなと思っていたんです(笑)。自分よりも小さいミクロの世界を知れば、少しでも妖怪に近づけるかも!?と思ったりして。
西野:なるほど、そうくるかぁ(笑)。安田さんは、発想もユニークですよね。そういうところは、絶対に真似できないものです。
安田:ありがとうございます(笑)。なので、美術以外で学ぶなら食品、その中でも微生物にちょっと興味があるという感じで受験しましたが、入学前から具体的な目標があったわけではありませんでした。ただ、授業などを受けていくうちに、だんだんと自分は食品の中でも何に興味があるのかを考える機会がたくさんあって。当時の学部内には、食品ひとつとっても、その保存について研究するところやテクスチャーを扱うところなど、色々なテーマの研究室がありました。その中から、微生物を扱う学生実験を経験したりして、微生物がより面白いと思うようになり、徐々に自分の興味が定まっていった感じです。
西野:素晴らしい流れですね。
安田:色々な勉強ができたことは、本当に良かったです。選択授業も幅広く取っていましたし。それこそ芸術学の講義も取りましたし、1年生ではコミュニケーション論や哲学なども学びました。
西野:そういう一般教養って、中には「専門外だから面白くない」と言う人もいるけれど、本当に大事ですよ。
安田:そうですよね。それに単位のためというより、学んでいる内容が面白かったんです。例えば、演劇というカテゴリーの中にも、宝塚、ミュージカル、能など、色々な種類があって。授業で能のことを知って、実際に観に行ってみたら、それもまた面白くて。面白いと思ったら、どんどん首を突っ込んでいこうという姿勢でいました。
■大学時代、特に印象に残っている活動や経験はありますか?
安田:農業系サークル「NOSA」という、3年生くらいのときに新しくできたサークルに参加していました。コンポストをつくったりして、面白かったです。西野:本学部の松井徹先生が、始めたサークルだよね。あちこち外へ出て、植物を植える活動をしたり、牧場見学などもしたりしています。
安田:磯沼牧場ですね。
西野:そうそう、八王子キャンパスのすぐ近くにある磯沼牧場。
安田:そこで牛を見て、堆肥がどう使われているかという勉強をしたり、実際にそこの牛乳でつくったソフトクリームをみんなで食べたり。あとは、普通の牛乳と、振ってバターをつくった後の脂が抜けた牛乳を飲み比べて、味の違いを体験するなんてこともしました。あれはとても楽しかったです。
西野:バターづくりは、食品実験でしていたチャーニングという操作ですね。
安田:はい! 覚えています。授業で学んだことが、ふと出てきたりすると、「ここにつながっているんだ」と思えて、すごく印象に残りました。
西野:実際に経験してみるって面白いからね。そういう形で、学びの良いサイクルができていますね。
安田:あとは、やはり卒業研究ですかね。私はキムチの腐敗していく様子を追う研究をしていました。キムチは放っておくと、どんどん酸っぱくなったり変な匂いがしたりするようになります。その経過を3ヵ月から半年くらいかけて調べてみると、最初と中間と最後で、キムチの中にいる菌が全然違っていると分かりました。
西野:3回調べると、3回とも違ったもんね。
安田:何度試しても、なかなか同じ結果が取れなくて。
西野:例えば納豆をつくるときは、納豆菌を入れますが、キムチは何も入れないで漬けます。植物に付いている乳酸菌だけで発酵させるんです。そこで今年は、白菜に色々な種類の菌がついているのではないかということで、産地の違う白菜を使ったキムチを比べてみようかと、共同研究しているキムチの会社と進めているところです。
安田:その会社から、研究室に10kgのキムチが届いて(笑)。研究室の冷凍庫を開けるとキムチの匂いしかしないという思い出が…。
西野:あれはすごい量でしたね(笑)。そんなふうに安田さんが手がけていたキムチの腐敗に関する研究は、今も後輩たちが続けていますよ。
安田:それは、うれしいです!
■将来の進路や就職については、どう考えていましたか?また就職活動は、どのように取り組みましたか?
安田:当初は、具体的なことは何も考えていなかったのですが、卒業が近づくにつれて、してみたい仕事の分野や職業が自分なりに見えてきた形です。西野:したいことがはっきりしたのは、就職活動中でしたよね。色々な会社を受けていたし。
安田:ビールメーカーや酒造メーカーから、食品会社の広報や営業、食品原材料の会社やB to Bの会社も受けました。食品以外にも、映像を撮る会社を受けたりして。私を含めて多くの学生は、お店に商品を卸しているような会社しか知りませんが、西野先生はそれ以外でも面白そうな会社の情報を、色々と教えてくださって。その情報から自分で検索して、説明会に参加していました。先生は、最初に「業界を特に決めないで行ってみると良い」とアドバイスしてくださいました。
西野:学生には、「とりあえず、色んなところの説明会に行きなさい」と言っています。実際に行ってみたら、どこの会社が合うのか、合わないのかがわかります。世の中には、色々な業種がありますが、それは説明会に行かないと分かりません。逆に説明会に行けば、どうしてもその会社の色が出てくるので、それを見て判断できます。
安田:確かに、あまり興味のなかった会社でも、説明会で話を聞いてみたら、すごく興味がわいたということがありました。
西野:実際に行ってみて、ピンとこなければ、その業界は自分には向いていないということが分かったわけですから、一歩前進です。そうこうしているうちに、進路が絞れるでしょう。あの仕事よりこっちの方が向いていると、比較することもできますからね。
私自身、会社で働いた時に感じたことですが、会社に入ると、全く別の業種の人と話す機会は、あまりありません。そういう意味では、学生時代にしかチャンスがないので、積極的に説明会に行くように促しています。
安田:私が就職活動を始めた当時は、ちょうどコロナ禍でオンラインでの会社説明会もたくさんあったので、1日に2、3社、参加できました。全部で50社くらいは参加したと思います。その中で一番してみたい仕事が商品開発だとわかり、今、幸いにも、その職に就けています。それでも内定を取るには、かなり時間がかかってしまいましたが。
西野:意外と苦戦したんだよね。安田さんは、すごく良いものを持っているから、正直、私は「落とした企業って、見る目ないな」と思っていたくらいです(笑)。
安田:今、勤めているに決まったのも、就職活動の最後の方でした。一番入りたかった会社だったので、決まって良かったです。私には"人のコミュニケーションの種となるような商品をつくりたい"という思いがあったので、最終面接では、それをぶつけました。「こういう商品を考えてみたけれど、どうでしょう?」と、自分のアイデアを固めて出したんです。結果として発想力が評価されたのかなとは思っています。
■現在の仕事内容について教えてください。また、大学で身に付けたことで、仕事に活かせていると思うことはありますか?
安田:商品開発部で、アイスクリームの新商品開発や商品リニューアルなどを手がけています。例えば、チーズケーキ味のアイスクリームをつくりたいとなったら、どの種類のチーズを使うか、副原料に何を合わせるか、フレーバーは何を使うか、何度で温めるかといった、何千何万とある組み合わせの中から可能性を少しずつ検討していって、最後にベストを見つけるという作業をします。西野:安田さんは、そういうことが向いていますよ。発想は奇抜でも、意外と研究はすごく地道に進めるタイプですから。考え方が現実的で、非常に謙虚だから、地道にコツコツ作業ができる人です。間違いなく大きい会社で通用すると思っていました。
安田:商品開発では、ビーカーを使って調合したりしますから、実験器具の扱いなどは、研究室での経験をそのまま活かせています。それから、先ほど西野先生がチャーニングの話をされていましたが、割と研究室で使っていた専門用語が仕事の中でポンと出てくることがあって。それが瞬時に理解できるという意味でも、大学で学んだことが役立っています。
西野:とはいえ、開発の仕事はなかなか大変だよね。しんどい仕事だということは、伝えてきたつもりですが。
安田:今のところ、楽しさの方が上回っていますが(笑)、確かに大変です。わずかな条件の違いで変わってしまうし、品質保持の方法や溶けないようにすることを考えないといけませんし。今、開発のために1日2~3個はアイスを食べていますよ(笑)。仕事自体は希望していたものですが、想像以上に泥臭い仕事だと、実感しているところです。
そういう点では、この研究室で鍛えられた地道に取り組む姿勢が、一番、役立っているように思います。微生物は、本当にこちらの言うことを聞いてくれませんから。同じ状況で実験しているはずなのに、片方はうまくいって、もう片方はうまくいかないなんてことが普通にありました。それを何回も条件を変えて試して、突き詰めていって、最後に答えを見つけて…。それは今、私が取り組んでいる商品開発にもかなり通じる部分があると思います。
西野:開発は地道さとマニアックさが求められる仕事だからね。そういえば、先日、安田さんからアイスクリームのことや食品工場の現場のことを教えてもらいました。わずか2年で食品の専門的な話ができるようになって、驚くと同時に成長を感じています。
■最後に受験生?高校生へのメッセージをお願いします。
安田:自分がしたいことや興味を持ったことには、中途半端になっても良いので、とりあえず首を突っ込んでみてください。数を撃てば当たると思って、色々なものを見て、自分の興味や関心を見つけてほしいですね。今、自分は何もなくて不安だなと思っていたとしても、あれこれ経験してみると、自分の方向性が見えてくると思います。あちこち首を突っ込んで、どんどんチャレンジして、今の時間を精一杯使って楽しむと良いと思います。西野:好奇心は大事ですよね。
安田:そうですね。それにこの大学は、自分の"好き"を見つけさせてくれたところだと思っています。目標や学びたいことが曖昧な状態で入学した私が、授業を受けて、食品いいな、微生物って面白いなと思うようになって。学生実験では、実験するグループが毎回のように変わるので、同じ学部でも色々な同級生と話すことができて、案外、人と話すことが好きだなとか、開発したり何かを考えたりすることが好きだなという、自分自身の発見にもなりました。それに自分の"好き"が見つかったら、妥協せずに挑んでいける環境があります。西野先生は、1聞いたら100返ってくるくらいなので(笑)、心強い環境がしっかり整っています!
西野:学生には負けたくないからね(笑)。そういう意味では、世の中、色々と引き出しを持っていた方が強いですよ。受験生、高校生の受験勉強は、正直、面白くないこともあるかもしれないけれど、勉強しておくと、後で役立つことが意外と多いものです。
安田:確かに、学んでおいて良かったと思うことはあります。その時は、分からないのですが。そういえば先生の研究室には、微生物を通す容器や遮光性の容器など、色々な商品の容器があって。光を遮ることで、食品に良い影響があるという話を聞いたことがありました。それが今の仕事で、例えば、抹茶の商品は、抹茶が光で劣化しやすいから容器の色で工夫するといった話が出てくると、「つながったな」と思います。容器の形が大事で、壊れないようになっていることも、似た話を西野先生がされていたので、今になって「あのことか!」と実感できています。
西野:私も食品会社で研究開発を行っていたので、社会に出たときの予習になればと思い食品製造現場の話をしています。そんな話もあったなくらいで十分なので、少し頭に入れておくと良いですよね。いつ役立つかは、分かりませんが。
安田:そうですね。それに少しでも知っていれば、世の中が面白くなると思います。
■応用生物学部:
/gakubu/bionics/index.html
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