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研究?教育紹介

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学生が臨床検査技師として働くときのイメージを持てるよう、リアルな現場経験を伝えるよう心がけています

2022年12月9日掲出

医療保健学部 臨床検査学科 廣田雅子 准教授

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好きだった化学を医療分野で活かせると臨床検査技師の道を選んだという廣田先生。現在は、臨床現場でのリアリティある体験談を交えながら学生の指導にあたっています。今回はそんな廣田先生が取り組んでいるご研究や教育について伺いました。

■先生のご研究についてお聞かせください。

 分野としては、血液検査学や免疫検査学を専門としています。現在、他大学や企業との共同研究を進めているところです。今日はそのうちの一つで、臨床検査機器を製造販売するセラビジョン?ジャパンが提供する細胞鑑別教育ソフト「WebPRO」を活用したeラーニングシステムについてお話ししましょう。
 これは臨床検査技師を目指している学生や現場で働いている臨床検査技師を対象とした、月500円で2枚のスライドを勉強できるeラーニングシステムです。私は昨年7月から提供が始まった末梢血細胞を用いた「初級コース」から関わっています。実際の臨床現場では、末梢血の形態検査(白血球分類)と呼ばれる血液の異常を調べる検査が行われています。その検査では採取した血液をスライドガラスに塗抹し、染色した標本を機械にかけ、細胞のデジタル画像を顕微鏡で撮影し、100個の細胞に対してこの細胞は好中球、これはリンパ球と機械が分類していきます。これらの分類には正常値があり、それを基準に好中球が多い、リンパ球が非常に多いといったことから、病気かもしれないと分かるのです。中には機械が分類できない細胞も出てくるため、そういうものは必ず人間が目で見て確認をします。例えば、白血病細胞などが末梢血に出てきていると、病気だと言えますが、それを臨床検査技師が見落とさないように、きちんと白血病細胞だと判断し、臨床に報告しなければならないのです。
 そこでこの「初級コース」では、末梢血の色々なパターンの細胞50個の画像をランダムに表示し、受講者はそれを好中球、リンパ球と、ドラックアンドドロップで分類していきます。もともと末梢血細胞の種類は少なく、好中球の分葉核球と桿状核球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球の6つくらいですから、それほど難しいものではありません。また、分類した結果を送信すると回答が出て、間違っていればフィードバックがあり、学び直しができます。また、この課題に参加した人全体でどれぐらいの正答率だったか、その中で自分の正答率はどうだったかといったことを比較することもできます。
 この「初級コース」が非常に好評で、より難しい骨髄細胞のコースも提供してほしいという要望を受け、今年の9月から「骨髄細胞コース」の提供も始まりました。骨髄細胞は末梢血よりも複雑で、種類が多く、見分けるのが難しいです。臨床検査技師として働いていてもマスターするにはトレーニングを経て早くて半年ほどはかかります。そのくらい独り立ちするのが難しい検査なのです。ですが血液検査に従事している臨床検査技師は、非常にモチベーションの高い人が多く、骨髄細胞を学びたいという声が大きかったのです。
 システムとしては末梢血細胞の「初級コース」と同様、画像が出てきて分類していきます。骨髄細胞の場合、実際の検査では500個の細胞を分類するのですが、このeラーニングでは100個の細胞を分類していきます。健常人の骨髄と患者さんの骨髄の画像をそれぞれ配信していて、健常人の骨髄細胞を分類するだけでもとても勉強になるのですが、加えて病気の骨髄細胞も分類するという形で症例の学習に活用してもらっています。

■先生はこのeラーニングシステムにどのような形で関わっているのですか?

 今回の研究は、セラビジョン?ジャパンから独自のeラーニングシステムを開発したいという相談を受けたことに始まります。私自身、臨床と教育の現場にいるので、こうした教材の必要性は、以前から感じていました。そこでセラビジョン?ジャパンと一緒に開発しようとなったのです。ただ、今は患者さんの標本などを病院外へ出すことが、医療倫理的に非常に難しい時代になってきています。匿名であったとしても、自分の細胞が色々な人の目にさらされることに抵抗を感じる方もいらっしゃいますからね。とはいえ、このeラーニングシステムでは、実際の細胞の画像が必要です。そこで私の前任の信州大学医学部附属病院に相談したところ、廃棄する標本や亡くなった方の標本であれば利用できるだろうということで、倫理委員会を通してもらい、手に入れることができました。
 また、「骨髄細胞コース」では、実際の現場で臨床検査技師が提出する報告書を書く練習もできるようにしています。臨床検査技師は「この細胞はこういう特徴だから、この病気だと考えられます」といった報告書を臨床に渡すのですが、その練習としてコメントを書いて提出してもらっています。そうした受講者のコメントや回答を集計して、後で私が総括してフィードバックします。例えば、この細胞の正答率は全体では何パーセントだったけれど、違う細胞に何パーセントぐらいの人が分類していて、その理由はこうだと思うという感じの講評をしているのです。
 画像の分類の正解?不正解は機械がしてくれますが、受講者が答えを見て、疑問に思うこともあるはずです。わかりやすい細胞の画像も出しますが、判断に悩む細胞も出題していますからね。そういう判断に迷う細胞は、熟練の臨床検査技師が見ても迷います。ですから、こういう理由でこちらが正解だろうという見立てを私がフィードバックしています。

■今回のeラーニングシステムの開発の背景やその狙いとは?

 「初級コース」の説明で末梢血の形態検査(白血球分類)の話をしましたが、臨床検査技師は、例えば白血病細胞が末梢血に出てきていたら、それを見落とさないようにしなければなりません。そのためには、きちんとそれが白血病細胞だと分からないといけないのです。
 ただ、小さな病院の場合、白血病の患者さんはそうそう来ません。そういう環境で働く臨床検査技師は、症例を知る、つまりこの症例ではこういう細胞が出るということを学ぶ機会がありません。そうなると異常かもしれない細胞をチェックするときに、判断ができないわけです。
 また、100個の細胞を見ていたときに、その半分ぐらいが異常のある細胞であればわかりやすいのですが、100個の内の1個や2個だけ異常細胞だった場合は判断が難しいですし、より慎重になります。というのも、もし1、2個の異常細胞だから大丈夫だろうとスルーすると、その患者さんは一生病気が見つからなかったり、病気が非常に進行した後で見つかったりということになりかねません。ですからある意味、病気の発見は臨床検査技師にかかっているとも言えるのです。
 一方、骨髄細胞は末梢血とは異なり、機械での分類が難しいです。そのため、人間の目で見るしかないので、かなり大変です。また、小さな病院では骨髄検査自体を扱っていません。さらに大学病院でも、骨髄細胞を見られる臨床検査技師は限られています。
 加えて、ひとくちに細胞といっても、若い細胞からだんだんと成熟して変化していくので、それぞれの段階で特徴が変わります。そこで人間は、核の形や細胞質の色調の違いによって細胞に名称を付けています。ただ、それは人間が勝手につけている名前ですから、その中間に当たる細胞も出てくるのです。そうなると、見る人によって、その中間にあたる細胞をどの段階に分類するか意見が分かれます。もちろん教科書には、それぞれの段階の細胞の定義が書かれています。ですが、例えば色調は紫がかったピンク色と表現されているため、その色の捉え方は人によって異なるのです。そういうところに解釈の“層”が出てきてしまうので、画像をみんなで見て、微妙な特徴のニュアンスを統一化し、共通認識が持てるようにするという意図も「骨髄細胞コース」をつくった背景にあります。

■先生が臨床検査技師の道に進もうと思った理由とは? また、研究の魅力についてお聞かせください。

 単純ですが、高校生で進路を決める際、化学が好きで実験が好きだったことと、白衣を着る仕事にちょっと憧れがあったという理由で、臨床検査技師になるための学部学科を選びました。将来性を考えても医療分野は絶対になくならないだろうということや、幼い頃、祖母に「あなたは看護師になりなさい」と言われたことも大きいです。自分では看護師には向かないと思っていましたが、なんとなく医療系というイメージを自分の中に持つきっかけになりました。
 大学を卒業後は、母校の附属病院の検査部に就職することができました。実はそこが非常に研究熱心なところで、みなさん仕事が終わった後に研究をしたり論文を書いたりするのが当たり前という環境で。そういう環境に入ってしまったので、自分も研究するしかないという感じですね(笑)。そこで良い指導者と巡り合うこともでき、とても鍛えられました。さらに私が中堅になったころに、母校の医学部に社会人大学院ができたのです。仕事をしながら博士号を取得できるので、これはラッキーだと思い、大学院に入って研究に取り組みました。
 研究自体は大変ではありますが、楽しいですし、実験がうまくいったときは、疲れも吹き飛ぶほどのやりがいや達成感があります。学会発表後の開放感や論文が掲載されたときの高揚感、誇らしさ、みんなで1つのことを達成したという喜びもあります。ある種、そういうものに取りつかれたと言えるのかもしれませんし、それが研究を続けるモチベーションになっていますね。

■学生を指導するうえで心がけていることはありますか?

 大学病院にいた頃は、学生が病院に来て現場のことを学ぶ臨地実習の際に、指導する立場ではありましたが、大学のように教壇に立って教えるということは、本学に来るまで経験したことがありませんでした。ですから学生にうまく伝えるにはどうすればよいかということは、常に試行錯誤しながら進めています。
 また、私自身は比較的、臨床経験が豊富な方なので、学生には自分が臨床で経験したこと、困ったことや楽しかったこと、やりがいなどをできるだけたくさん教えたいと思っています。学生が卒業後に臨床検査技師として働くときのイメージが持てるように、リアルな現場を伝えたいのです。例えば、3年前期の骨髄形態学の実習では、学外から先生を招き、複数名で同じ標本を観察できる「ディスカッション顕微鏡」を用いて、学生と一緒に細胞を観察します。そのとき、その先生と私が顕微鏡をのぞきながら、「先生、この細胞は何だと思います?」「こっちは○○じゃない?」みたいにディスカッションしながら学生に教える一幕がありました。そのやりとりから学生は現場の雰囲気を感じることができたと言ってくれて、私としてはとてもうれしかったです。
 臨床検査技師は、単に検査をするだけでなく、その結果や情報を整理して医師に伝え、診断のサポートをします。もちろん、最終の診断は医師がしますが、臨床検査技師は「この細胞はこういう顔付きで、他の検査結果がこうだから、この種類の白血病だと思います」といった情報も伝えます。ですから、医師と対等にディスカッションできなければなりません。正確な情報からしっかりとした見立てを伝えることで、医師にも信頼してもらえるようになりますからね。ときには臨床検査技師から医師へ追加検査を要請することもあります。それによって診断が確定することも多々ありますから、まさしくチーム医療と言えますし、そこにとてもやりがいがあります。そういうものを学生に少しでも感じてもらいたいですね。

■最後に受験生?高校生へのメッセージをお願いします。

 本学の医療保健学部は創設して10年ほど経ちますが、今も校舎はきれいですし、新しい機器や教育熱心な先生方が揃っているので、ぜひ一度、キャンパスに足を運んでみてください。臨床検査技師はコロナ禍のPCR検査で少し名前が知られるようになってきたように思いますが、それだけでなく色々な検査にまつわることや予防に関わることなど幅広い仕事をしています。その分、やりがいも大きいですよ。オープンキャンパスなどを利用して、臨床検査技師の仕事や本学の学びについて、より深く理解したうえで、本学を選んでもらえるとうれしいです。
■医療保健学部 臨床検査学科:
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