広告はポジティブ思考で人に寄り添う!時代を読み取り、どんな逆境も乗り越え、企業を前進させるものです。
メディア学部 メディア社会コース 藤崎 実 講師
大学時代は映画監督を目指していたという藤崎先生。映画人との交流で培った力を広告の世界で活かした後、現在は、自身の世界観を広げてくれた広告業界に恩返しをと、本学で研究と後進の育成に注力しています。今回はコロナ禍でのメディア学部の授業に加え、先生の研究室での取り組みについてお聞きしました。
■2020年度は可爱水果老虎机感染症の影響で、本学でも遠隔授業が中心となっていますが、メディア学部では具体的にどのような形で授業を進めてきたのですか?
昨年の可爱水果老虎机感染症の流行に伴い、メディア学部でもいわゆる遠隔授業が始まりました。方法は大きく3つあって、1つは対面授業、もう1つはリアルタイムのビデオ会議形式、それから予めつくっておいたオンデマンドコンテンツを学生に見てもらい、それに対して質疑をもらうというものです。
また、1つめと2つめを足したハイブリット式の授業も行なっています。教室で学生を前に授業をしつつ、その様子をZoomでリアルタイム配信するというものです。例えば、大学の近隣に住んでいて、対面授業を望んでいる学生は教室で授業を受け、逆に遠方に住んでいて、交通機関の利用にリスクを感じる学生や同居家族に高齢者がいる学生はZoomで参加するというように、学生一人ひとりの状況や希望に合わせて選択できる授業もあります。
また、もともとメディア学部の学生はノートパソコン必携で、非常にITツールとの親和性が高いので、遠隔授業で学生が困るという状況はありませんでした。私たち教員も遠隔授業では、チャットでリアルタイムに質問ができるようにするなど工夫をしていて、結果として対面式よりも学生の授業参加への熱量を感じられたほどです。特に大人数の授業は、対面ではなかなか手を挙げて質問しづらいですが、チャットであれば学生はたくさんの質問を寄せてくれます。ですからオンライン授業だからといって授業の質が低下しないように、教員側も最大限、努力しながら進めてきました。
■では、先生の研究室での取り組みについてお聞かせください。
私の研究室では、広告コミュニケーションに関する研究に取り組んでいます。広告と聞くと、多くの人がテレビCMやポスター広告、新聞広告を思い浮かべるかも知れませんね。ですが現代の広告は、もっと幅広いものです。インターネットやデジタルが当たり前となった今、広告は一方通行のマスマーケティングという従来の概念を超えて、広告という表現手段を使った企業からのコミュニケーションになりました。その際に重要なのは相手の立場に寄り添う姿勢です。その上で、どうしたら商品や企業が前進するかという知恵を絞るのが今の時代の広告なのです。
具体的な話をすると、例えば今年の4年生が取り組んだ卒業研究に「知育菓子にみる、子ども向け食品の広告戦略」というものがあります。知育菓子の代表的な商品として挙がる、クラシエフーズの「ねるねるねるね」をご存知ですか。この「ねるねるねるね」は、1986年に発売された、つくっている途中に色が紫や緑色に変わるというお菓子です。発売当初は子どもから人気を集めましたが、その色合いから親御さんに「体に悪そう」というイメージを持たれるなどして、徐々に売上が下がっていったそうです。そこで2011年にパッケージを一新し、合成着色料?保存料不使用であることを明記し、数字の「0」をロゴマーク化したところ、再び売上が伸びていったのです。今は健康志向の強い時代ですし、昔、このお菓子を食べていた人が大人になって、今度は自分の子どもに食べさせるという状況になっています。そのときに、合成着色料?保存料不使用であると伝えることは、親世代に対する大事なコミュニケーションの切り口なのです。
さらに、パッケージの大幅リニューアルに合わせて制作したのが、発売当初にオンエアしていた魔女が出てくるCMのリメイクバージョンでした。それによって親世代に懐かしく思ってもらうことで、売り上げ回復に拍車がかかったのです。このように、広告では人々の「なるほどね」とか「そういえばそうだった!」という気持ちを上手に捕まえることができるかどうかが大事になってきます。これは広告用語で「コンシューマー?インサイト」と言い、消費者の心理をつかむ重要性を指します。また、クラシエフーズは「ねるねるねるね」などの知育菓子に関する開発秘話やサポーターからの投稿写真などをInstagramや特設ホームページで発信しています。そういうSNSやネットメディアもすべて含めて広告コミュニケーションを設計することを「コミュニケーション?デザイン」と言います。今の時代の広告は、とても立体的なのです。
他にもこの学生が卒業研究で調べた面白い事例があります。クラシエフーズの知育菓子「ポッピンクッキン たのしいラーメンやさん」は、2011年の発売当初、ラーメンそっくりの見た目通り、味も本当にラーメンの味でした。ところがまったく売れなかった。その理由を学生が調べたところ、味に問題があったのではないかということがわかりました。リアリティのある味が欲しいと思っているのは、おそらく大人の発想で、子どもが欲しているのはあくまでもお菓子なのです。そこで2015年に味をソーダやコーラといったお菓子の味に変えたところ、売れ行きが向上したというのです。つまり、子どもが食べる商品なので、今度は子どもの心理をつかむ「コンシューマー?インサイト」が大事だったというわけです。このようなことも広告コミュニケーションであり、広告のクリエイティビティだと言えます。
■今の話を聞くと、広告の扱う範囲が想像以上に広い印象を受けますね。
私が担当する広告の授業を受けた学生の多くも、「これが今の時代の広告だったの?」と驚きます。先述したように、昔のイメージから広告と言えばテレビCMや新聞広告、雑誌広告が真っ先に浮かびがちですが、今、そういうマス広告に頼らない企業も増えています。例えば、サンリオピューロランドは、テレビCMをやめました。ピューロランドは以前、「ちゃんりおメーカー」や「ちゃんりおフレンズ」(いずれもサービス終了)というサンリオ風のアバターがつくれるアプリが人気で、一時期はそれが広告の代わりになっていました。また、これは私の研究分野でもあるファンマーケティングに関係するものですが、現在、ピューロランドでは“ピューロランドアンバサダー”を設け、ブログやSNSで情報発信してくれるファンやピューロランドに興味のある人を募っています。企業がファンやアンバサダーに情報提供することで、彼らに発信してもらうのです。
これに限らず、インターネットの発展に伴って、今やSNSなどでのクチコミは無視できない存在になっていますよね。つまり、昔は企業が情報の発信主でしたが、今は一般の人が情報の発信主になる時代なのです。そこで、一般の人たちをどう巻き込むか、好きになってもらうためにどんな施策を提供するかが、今の広告では重要になっています。とはいえ、インターネットやデジタルが発展したから、これからの広告はデジタル一辺倒になるかというと、そうではありません。広告は欲張りですから、手段が多いことは良いことなのです。例えばある自動車会社は、新聞広告をやめましたが、ポスターは続けています。それは、格好よくデザインされた車のビジュアルを見て、「かっこいい!」と思う人々の感覚は今後も変わらないと思われるからです。1枚のかっこいいビジュアルは、デジタルでも展開可能です。つまりメディアありきではなく、人の心理に合わせて、より的確な広告手段を選択していくわけです。
このように広告は時代とともに変化しています。もちろんその中には、ずっと変わらないものもあります。広告をつくる際に大切なことは、一般の人がどう考えて、どういうことを行なっているか、その時代感を知ることです。広告を学ぶということは、今の時代の人々が何に関心を持っているのかを学ぶことなのです。
■先生はどのような経緯で広告の世界に進むことになったのですか?また、どんなところに広告の面白さや魅力を感じていますか?
子どもの頃はマンガが好きで、やがてSFが好きになり、大学時代は多くの映画監督と交流を持つ機会ができ、映画の世界にどっぷりつかっていました。将来は映画監督になりたいと思っていましたが、厳しい世界に飛び込むには、正直、怖さがありましたね。そんなとき、ある映画界の人が私に広告業界が向いているのではないかと言ってくださって。そのとき、今まで培ったスキルを違うところに活かしたほうが、自分自身を活かせるかもしれないと気づいたのです。実際、大学時代に色々な映画関係者から教わったクリエイティブに対する考え方を広告の世界に活かしたことで、私は広告の世界で頑張ることができました。ですからメディア学部の学生にも、自分が進みたいと思っている業種や世界を狭めず、広い視野を持った方が良いと話しています。
そうして進んだ広告業界は、とても奥深くて面白いものでした。広告には色々なスキルが必要で、CGやキャラクターデザイン、音楽、コピー、写真、デザインなど、あらゆるクリエイティブの業種を飲み込むだけの広さがあります。そしてその世界には、素晴らしい人たちがたくさんいて、良い出会いもたくさんありました。
また、広告はポジティブ思考の技術だと言えます。どんなに苦しい状況があってもそれを乗り越えていく、企業や学校や団体を前進させることが広告の役目です。例えば、サントリーはお酒を売るメーカーですが、現在のコロナ禍では、みんなで集まって乾杯することはできません。そこで2020年5月からテレビCMで流したのは、タレントたちのオンライン飲み会の様子でした。キャッチコピーは、「話そう。」です。サントリーは様々な飲料をつくっている企業ですが、実は人と人が話しをする機会をつくっていた会社なのですと、自分たちの企業価値を提示したのです。コロナの影響で人と会うことができなくなりましたが、こういう状況で大事なのは「人と話をすること」なんだな、と多くの人が心を動かされたと思います。このように広告は、どんな時代にも合わせて動き続ける、とてもたくましいものなのです。そういうところが面白いなと思っています。
■最後に受験生?高校生へのメッセージをお願いします。
メディア学部は、多くの学生の興味の対象となる様々な分野が網羅されています。また、その中のひとつの分野を取ってみても、理系的なもの、社会的なもの、技術的なものと、学びの切り口は多様です。ですから自分の興味ある分野に飛び込んで、そこから枝葉を次々に伸ばすこともできるし、そのまま直進することもできます。興味あるものをより深く、より広く学べるうえ、その過程で新しいものとの出合いもあることでしょう。そういう期待を持って、入学してもらいたいですね。
また、大学時代は、社会に出るための練習期間だと思います。この期間に色々なことに挑戦して、失敗したり成功したりとたくさんの経験をしてください。それによって社会に出る準備ができますし、そういう機会とすることで大学生活が充実すると思います。
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