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金のアノード酸化やそれにより生成された金酸化物の研究で、次々と新しい発見をしています!

2019年11月22日掲出

工学部応用化学科 西尾 和之 教授

西尾 和之 教授

 金属の表面を電気化学反応で加工し、機能化する研究に取り組んでいる西尾先生。今回は、研究室での取り組みや現在の研究に至ったきっかけなどをお話しいただきました。

■先生の研究室では、どのような研究に取り組んでいるのですか?

 電気を利用した化学反応(電気化学反応)によって金属の表面を加工し、機能を持たせる研究に取り組んでいます。特に、金属を陽極として酸化反応を起こして表面を加工するアノード酸化(陽極酸化)という技術で、金を対象にした研究に力を入れています。
 もともとアノード酸化は、アルミニウム(Al)で行われることが多く、その歴史は古いです。代表例としては、アルミサッシの表面加工。元来、Alは錆びやすいため、それを工業製品などで利用しようとすると、何かしら対処しなければなりません。そこでアノード酸化を用いて、Alの表面に錆の膜(酸化膜)をつくり、それ以上酸化させないようにします。硫酸のような酸性水溶液中でAlのアノード酸化を行うと、時間とともに酸化膜が厚くなっていくので、Alの表面が硬くて丈夫になり、強度的にも化学的にも長期の使用に耐えることができます。
 この研究室では、そのアノード酸化をAlではなく金で行ったところ、非常に面白い現象と出合いました。しゅう酸水溶液中で金をアノード酸化すると、その部分が真っ黒な金になるのですが、ナノスケールの微細な穴からなる多孔質皮膜となっていました。この技術により、金の表面積を簡単に上げることができます。金でできた電極をセンサなどに使う場合、表面積が大きいとその分、感度が高くなるのです。また、使用する金の量も少なくてすみます。
 それから、硫酸などの水溶液中で金をアノード酸化すると、酸化された金、つまり金酸化物の多孔質皮膜が得られますが、これを放っておくと金に戻るということも当研究室で発見しました。金に戻るということは、金は錆びた方が不安定な状態にあるという事です。AlやFeなどの一般的な金属は大気中で加熱すると表面が酸化されますが、金の場合は、例え酸化されていても、加熱すると金に戻ります。特定の条件では、金酸化物皮膜が爆発を伴って還元する現象も見つけています。

■今、この研究にはどういう課題があるのですか?

 金のアノード酸化皮膜は目的があって作ったものではなく、偶然見つけたものですので、その用途を考えています。中でも特に力を入れているのは電池です。電池は、基本的に金属材料を電極に用いています。例えば、リチウムイオン電池は、すでに広く使われていますが、実はリチウムは最も錆びやすい、酸化されやすい卑金属です。その対極にあるのが金で、最も錆びにくく、酸化されにくい貴金属です。しかし、今まで金を使った電池は検討されていませんでした。
  あまり目にする機会がありませんが、貴金属の一つである銀は、酸化銀電池として既に実用化されており、主に腕時計に用いられています。小さいながらも長時間安定して使え、高性能な電池です。その銀よりも貴な金属が金ですが、銀と金の差は結構大きいです。例えば、電池の起電力(出力電圧)を金属材料ごとに比較すると、銀の0.8ボルトに対して金は1.5ボルトもあります。また、銀イオンは1価ですので、酸化還元のときに銀1原子に対して電子1個が移動しますが、3価の金は金1原子に対して電子3個が移動します。つまり電流が3倍になるのです。これらの特性を考えると、酸化金電池ができたら、恐らくかなり性能が高いものになるでしょう。ただし、金と銀では価格の差が大きいので、コストが大きな課題になります。酸化金電池を実用化させるためには、電池の性能を飛躍的に上げるだけではなく、低コストなリサイクル方法を確立する必要もあるでしょう。
  また、もうひとつ期待していることは、金のコロイド(微粒子)です。金をアノード酸化した後、電極を水中に入れておくと、金のコロイドが生成されるという現象を見つけました。金のコロイドは色々と用途があるのですが、従来の製造方法では劇物を原料とするのに対して、この研究室ではクエン酸水溶液を用いて生成します。金、水、クエン酸と電気で製造できますので、非常に安全安心で環境負荷が低いのです。この現象も未解明ですので、これから詳細に調べていくところです。
   金酸化物の研究は未開拓の分野といえるので、今後もその特性を色々と調べて、役立てる方法を探りたいと思っています。その過程で、まだ見つけていない面白い現象が現れると良いですね。

■先生がこの分野に興味を持たれたきっかけや研究の面白さについてお聞かせください。

 一番大きなきっかけは、実験が好きだということですね。小学生の頃から理科実験が大好きでした。金属の電気化学反応を研究対象にしたのは、大学4年で研究室に所属してからです。私の趣味の一つが自転車で、自転車の部品などを磨いたり整備したりすることが好きなのですが、自転車のパーツの中にはAl製のものがあり、その表面に「アルマイト」というAlの酸化皮膜が施されていることを知っていたのです。私の所属した研究室でも、ちょうどAlの酸化皮膜を扱っていたので、研究してみようと思ったことが始まりです。
 この研究の面白さは、非常に微細な構造をつくることができる点です。自転車のパーツでアルマイトを知ったときは、異様に硬い酸化物の皮膜があるという程度の知識でしたが、研究を始めて、そこに微細な構造ができていることを学びました。電子顕微鏡を使わないと見えない様な、微細な構造を制御できることに面白さを感じたことが現在も続いています。

■最後に受験生?高校生へのメッセージをお願いします。

 東京工科大学の工学部応用化学科は、材料に対する興味を満たせる環境が整っています。非常に優れた分析装置がたくさんありますし、私が良く利用する電子顕微鏡も世界最高レベルのものが備えてあり、非常に良い状態に維持されていますので、研究を進めるうえで本当に助かっています。
 また、この学部は早い時期から研究を意識できるという特長もあります。一般の大学では4年生から研究室に所属して研究を始めるため、就職活動を行う人は、それが終わってから卒業研究を始める場合が多いです。しかし、応用化学科は研究室配属が決まるのが3年生の前期と早く、3年生後期には「創成課題」という授業で、研究室で卒業研究に向けた準備を始めます。この制度により研究に多くの時間をさけるうえ、研究室の4年生からの引継ぎも可能となります。
 工学部は、コーオプ教育にも特長があります。応用化学科の学生は3年前期に、企業に約8週間勤務するコーオプ実習を行います。この実習は、新入社員としての勤務に似ているので就職をイメージし易く、効率良く就職活動を進めることができます。その結果、卒業研究の時間を長くとれるのです。本学の工学部は、大学院への進学を含めて、思い切り研究をしたい人が満足できるところだと思いますよ。

■工学部:
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?次回は12月13日に配信予定です