“iPS細胞”と“AI技術”を使った新しい抗がん剤探索の研究が始まっています!
応用生物学部 杉山友康 教授
東京工科大学が全学的に取り組んでいる人工知能(AI)研究。応用生物学部では、バイオAI分科会を立ち上げ、バイオ分野にAIを適応させる新しい研究を進めています。今回は、杉山先生が主導するAI研究について、詳細を伺いました。
■バイオAI分科会で、先生が中心となって進めている研究についてお聞かせください。
大きなテーマとしては、がん化したiPS細胞とAIを使って、新しい抗がん剤を探す研究に取り組んでいます。私の研究室では、長年、DNAやRNAといった核酸を使って、がんを抑制しようという核酸医薬の研究をしてきました。それに関しては、成果も出ています。最近では、がん細胞に細胞死を誘導する核酸を発見しました。実はそれがすごく面白いものだったので、その方法を今度はずっと興味のあった“iPS細胞”と“AI技術”に組み合わせて、がんの親分と言える“がん幹細胞”に効く人工核酸を探してみようと考えたのが、この研究の始まりです。
がん幹細胞は、それが分裂?分化することで、がん細胞という子分をつくり出すもので、既存の抗がん剤が効きません。おそらく、それが原因でがんが再発するのではないかと言われています。ですから、大もとのがん幹細胞を何とかしようというのが、私たちの考えです。ところが、このがん幹細胞を採取?培養することは、非常に難しいのです。そこで今回は、正常なiPS細胞をがん幹細胞化させた細胞を使うことにしました。2年ほど前に縁あって、iPS細胞をがん化させる研究をしている先生と知り合うことができたので、今回、共同研究として、そこからがん化したiPS細胞を提供していただいて研究に取り組んでいます。
■具体的には、どういうことに取り組んでいるのですか?
今、コンピュータサイエンス(以下CS)学部の亀田弘之先生らと一緒に、がん幹細胞とがん細胞が混在している画像をAIで解析し、どこにがん幹細胞がいるのかを探せるようにしようと進めています。具体的には、がん幹細胞とがん細胞が混在している画像と、その中のがん幹細胞だけを蛍光させた画像の2つをAIに大量に入れてディープラーニングさせ、ヒトの目では分からない微細な画像の変化を捉えられるように学ばせているところです。がん幹細胞とそこから生まれたがん細胞は、細胞の形が違いますから、その違いを画像解析が得意なAIに見分けさせようという試みです。最終的には、がん幹細胞とがん細胞の混在した画像を見ただけで、どこにがん幹細胞がいるのか、どこにがん細胞がいるのかを瞬時に判断できるようにしたいと思っています。
それが実現できれば、今度は親分のがん幹細胞に抗がん剤候補の核酸を入れて、その効果や細胞の変化をAIで見ていこうと思っています。もし核酸を投入して効果があれば、がん幹細胞の様子が変わるはずです。それをAIで判別し、効率的に抗がん剤となり得る核酸を見つけようと考えています。
こうしたことができるようになれば、がん幹細胞とがん細胞の居場所を突き止め、がんの大もとであるがん幹細胞に核酸医薬をかければ、それをなくすことができるかも知れません。親分がいなくなれば、あとは数の限定された子分のがん細胞だけが残ります。そして、子分のがん細胞には、既存の抗がん剤が効きます。そういう方法で、がんの根治に貢献することを目指しています。
がんiPS細胞に抗がん剤候補物質を投与すると、がんの幹細胞を保つ細胞は緑色の蛍光を示す。この変化をAI学習に活用する。
抗がん剤候補物質投与前。幹細胞がどれにあたるのかがわかる。
■今後は、どういう展開をお考えですか?
iPS細胞は、培養皿に貼り付かないように特殊加工したところで培養すると、ボール状になるという面白い特徴があります。この場合、iPS細胞は丸い形になって浮遊している状態です。このボール状のがん化したiPS細胞をつくっておいて、そこに試薬をかけ流していくと、薬が効いたものがあれば、その変化が見てとれる画像が出てくると思われます。その画像を見ながら、この試薬は効いた?効かないを瞬時にAIに判断してもらって、たくさんある試してみたい人工核酸の評価に使いたいと思っています。
今、プロジェクトが本格始動して2カ月ほど経ちますが、すでに4000枚くらいの画像が撮れたので、これを続けて、何十万枚の画像をAIに学ばせようと思っています。また、今はネズミのがんiPS細胞を使っていますが、AIによる画像評価ができるようになれば、今度はヒトのiPS細胞に切り替えて、それまでにつくりあげたAIがヒトの細胞でも見分けられるのかといった、少し応用に近づけた研究段階に入りたいと考えています。
また、もしこの技術が完成したら、本学の工学部機械工学科の先生も巻き込んで、画像を撮りながら、流れ作業のように細胞が流れて行って、がんに効く薬を評価するようなシステムをつくれたら面白いだろうと思っています。
一方、私もCS学部の亀田先生も、今回のような取り組みは初めてでしたから、こういう他分野とのコラボレーションを通じて、何か新しい教育の在り方について考えられたらと話しています。というのも私たち応用生物分野の人間にとってCS分野は専門外なので、AIを使ってみたい研究はあっても、なかなか実現するのは難しいのが現状です。ですから応用生物分野とCS分野の境界領域で、AIを使える人、応用できる人を育てる教育があっても良いのではないかと考えています。
■受験生?高校生にメッセージをお願いします。
今日、紹介した研究は、最先端の技術を取り入れた新しい研究です。例えば、iPS細胞といえば、日本では再生医療の研究が主流で、世の中でがんのiPS細胞を研究に使っているところは非常に少ないです。また、がんの薬を見つけるためにAIを使おうと取り組んでいるところも、大学での研究としては、ほとんどないと思います。こうした分野を超えた先端的研究に関わっているのは、私の研究室の4年生です。私自身、「学生のやる気を引き出すことが大切。学習より学修が大切」をモットーに教育にあたっていますが、こうした他にない、ユニークな研究に触れられることが、一番、学生のやる気を引き出すことになるのではないかと思っています。みなさんもぜひ、本学部で新しい研究に挑戦してみてください!
■応用生物学部WEB:
/gakubu/bionics/index.html
?次回は8月8日に配信予定です