学修意欲アップや自信になるうえ就職活動にも役立つ資格取得を、学部をあげて支援します!
応用生物学部 加藤 輝 教授
化学の知識をベースに独自の機能を持つDNAやRNAを開発し、新しい診断技術や創薬に利用しようと取り組んでいる加藤先生。今回は、応用生物学部で始まった教育プログラムの詳細と最近の研究についてお話しいただきました。
■この4月から始まった応用生物学部の戦略的教育プログラムについてお聞かせください。
「能力開発推進教育プログラム」というもので、応用生物学部の学生の資格取得を支援することで、彼らの学修意欲を向上させることを目的としています。具体的には、「色彩検定」「フードアナリスト」「食品衛生責任者」「中級バイオ技術者」「危険物取扱者」など、本学部の学びに関係の深い資格の取得や英語力検定試験「TOEIC IPテスト」を受験できるように、対策講座の参加費や試験費用を一部または全額負担することでサポートします。
この背景には、以前から資格取得に興味のある学生が相当数いたものの、自分一人で勉強を進めることへのハードルの高さや金銭的負担といったことから、結局は受験まで至らなかったという学生が多かったことが挙げられます。そこでこのプログラムでは、学内に外部講師を招いて対策講座を開き、その参加料や受験料をサポートすることで、資格受験を迷っている学生の後押しをしていきます。
資格取得のメリットはいくつもあって、そのひとつに関連科目の学修意欲が向上するという効果があります。例えば、「危険物取扱者」は化学系の科目、「中級バイオ技術者」は遺伝子工学や分子生物学、微生物学といった直接関連する科目がありますからね。また、資格は就職活動の際、履歴書に書くことができるうえ、取得したプロセスを自己アピールとして面接で話すこともできます。がんばって計画的に学ぶことで、資格が取れたということは、学生の自信になりますし、1年生から資格を意識することは進路を考えることにもつながります。ですから本学部としては、学生にどんどん資格を取ってもらいたいのです。
さらにこのプログラムでは、本学部の1年生全員に「TOEIC」の学内試験を受験してもらい、その受験料を全額サポートします。「TOEIC」は資格と同様、550~600点以上あると就活のアピール材料になります。ただ、実際には何度も受けないと、その点数には到達できないことが多いですし、就活が始まる3年生になってから慌てて受験するのも大変です。そこで、1年生の段階で一度チャレンジしておくことで、その後の受験がしやすくなるだろうと考え、1年生全員受験を始めました。また、英語が苦手な学生には、学修支援センターで相談ができることや、全学部全学科にまたがる教養学環でも「TOEIC」のオンラインプログラムの補助があることなどを紹介し、英語学習のサポート体制を整えています。
■続いて、先生のご研究の近況をお聞かせください。
以前(2013年)の取材でDNAアプタマーの研究とDNAのメチル化を検出する研究について話しましたが、それぞれに進展があったので、その話をしたいと思います。
まず、DNAアプタマーについてですが、これは人工的につくったDNAで、体内で病原菌などを攻撃する抗体のように、特定の物質に結合できるという特徴があります。これに独自の工夫を加えて、がんなどの病気になったときに現れるタンパク質、いわゆる“疾患マーカー”に結合すると蛍光するDNAアプタマーの開発に試験管レベルで成功したというのが、前回のお話でした。そこから進展して、最近、がん細胞の表面の疾患マーカーを光らせて検出することができました。ただ、これは研究用の培養細胞を使った実験での成功ですから、今後は動物の組織から取り出した細胞で実験し、将来的にヒトの組織でもできればと考えています。そうすれば、手術中に微小ながんを見つけることができるかもしれません。ただ、組織から取り出した細胞は培養細胞とは違って不純物が多いため、反応の特異性を高める必要があり、そこがなかなか難しいところです。
また、最近は蛍光色素に結合して光るRNAアプタマーの開発にも成功しました。蛍光するDNAアプタマーとRNAアプタマーの違いは何かというと、DNAアプタマーは細胞の表面にある疾患マーカーの検出に使え、RNAアプタマーは細胞内の物質の検出に使えることです。実際に研究室では、大腸菌の中にあるS-アデノシルメチオニンという物質と結合すると光るRNAアプタマーを開発しました。これは簡単に言えば、大腸菌を殺すことなく、その細胞内にある物質を可視化できたということです。今後はこれをヒトの培養細胞でもできるようにして、従来からの低分子医薬品や最新のバイオ医薬品の創薬に欠かせない、スクリーニング(探索)技術に応用したいと考えいます。
蛍光を発するアプタマーを用いた
細胞表面および細胞内物質の蛍光検出
蛍光を発するアプタマーを用いた大腸菌内S-アデノシルメチオニンの蛍光イメージング
DNAのメチル化を検出する研究にも進展がありました。これはDNAを構成する4つの塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)のうち、シトシンにメチル基がついているかどうかを検出する研究です。シトシンは、メチル基がついているか否かで遺伝子の働きのオンオフが切り替わる、スイッチ的役割をしています。それを検出することでがんなどの早期発見につながる診断技術に利用しようと取り組んでいるのです。この研究では、100ナノグラム程度のヒトの遺伝子でシトシンのメチル化を検出できるようになりました。
また、従来の検出方法をさらに簡便化することにも成功しています。具体的には、これまでシトシンとメチルシトシンの識別に化学的な試薬を使っていたのですが、操作が煩雑で時間がかかるという問題がありました。そこで酸化剤を用いることで操作手順を減らし、反応時間を短縮させることができるようになりました。
■最後に受験生?高校生へのメッセージをお願いします。
新しい薬を創る、いわゆる創薬に携わりたい、将来は製薬会社で研究職に就きたいと考えている方の多くは、薬学部で学ばなければならないと思っているかもしれません。しかし、実際はそうではありません。私はもともと製薬会社で医薬品の研究に携わっていましたが、私自身は工学部の化学系出身ですし、現場では薬学部だけでなく、工学部、理学部、農学部と、さまざまな分野出身の人材が協力しあって創薬研究に取り組んでいます。
本学の応用生物学部?医薬品コースでは、バイオテクノロジーや生命科学をベースに、医薬品の研究をすることができます。ぜひ、医薬品コースで創薬の研究開発の道を目指してほしいと思います。
■応用生物学部WEB:
/gakubu/bionics/index.html
?次回は10月13日に配信予定です。