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新たな発見が得られるような、データの「可視化」を目指したい!

2016年8月5日掲出

メディア学部 竹島由里子 准教授

メディア学部 竹島由里子 准教授

コンピュータグラフィックスの技術を使って、さまざまな数値データを「可視化」する研究に取り組んでいる竹島先生。今回はそもそも「可視化」とはなにかということから、その可能性についてまで幅広くお話ししていただきました。

■「可視化」とは具体的にどのようなことなのでしょうか。

 高校生に一番身近な「可視化」の例は、グラフを描くことでしょう。数字だけだとわかりにくいデータをグラフにすると、全体の傾向や変化の様子がよくわかったりします。こうしたグラフは二次元の平面に描きますが、それを三次元空間上に描いたり、コンピュータのなかで実現するのが「可視化」です。もう少し詳しく言えば「コンピュータグラフィックスの技術を使って大規模な数値データを画像に変換し、視覚的な解析を可能にする技術」ということです。
 たとえば「動脈瘤の可視化」。動脈瘤というのは、動脈が膨らんでできた「こぶ」のことです。この「こぶ」の部分に血流によって圧がかかると、そこが破裂して重大な障害が生じてしまいます。そこで医工学の研究者が、静脈瘤にどれくらいの血液が入っていくと破裂してしまうのか、あるいは血流をコントロールするため血管内に入れられるステントという器具がどのように圧力を拡散させるかといったことをシミュレーションして出した計算データをもとに、私たちがコンピュータのなかで三次元の静脈瘤の画像を作ってデータを可視化し、それを解析する。このように可視化することで、動脈瘤破裂を回避する方法やそれが起こるメカニズムの解明を目指しています。

動脈瘤の可視化
動脈瘤の可視化

■データを「可視化」することのメリットは何でしょうか。

 コンピュータによる可視化の大きなメリットのひとつは、現象を壊さず観察できること。たとえば水の流れを内部から観察しようとした場合、そこに観測装置を入れた途端に本来の流れは壊れてしまいます。けれど水の流れを数値計算した結果をCGで再現すれば、本来の現象をそのまま観察できるのです。
 また本物の現象を観測するためには、宇宙を見るなら望遠鏡がいるし、体の中ならば内視鏡がいるというように、それぞれ別のデバイスが必要です。けれどコンピュータによる可視化は、パソコンさえあれば宇宙でも原子でも体内でも、どんなスケールのものでも同じ方法で表せます。このように、すべての現象を同じ方法で可視化できるというのも面白いところです。
 さらに社会現象や音楽といった物理現象として観測できないデータを可視化することで見えてくるものもあります。もともと三次元の現象としてあるもののデータを可視化するのは、単に「見える」ようにするだけならば、そんなに難しくありません。一方、次元とは関係のないデータを可視化してみると、そこに意外なものが見出せることもあるのです。
 とはいえデータを可視化してみたものの、そこから何の情報も得られないという場合もあります。本当に大切なのは単純に画像を作るだけではなく、可視化したことで新たな現象が見えたり因果関係が解明されるというように、なんらかの発見があること。そのため何かを「可視化」する際には、「どう見せるか」ということが重要なのです。

流れ場の可視化
流れ場の可視化結果。実際の流れをビデオで撮影したものの上に、数値計算結果を可視化して重ねて表示している。

■研究室ではどのようなテーマの研究が行われているのですか?

 私はもともと情報科学科出身で、卒論のテーマはデータベースでした。ただそこで数値を扱うだけだと面白くないし、せっかくなら画像もあったほうがいいなと思って可視化を取り入れ始めました。ちょうど指導教員がデータベースとCGをやっていた先生だったので、ちょうどよかったのです。それ以来、三次元空間の数値データの可視化を主な研究テーマにしているのですが、その分野は学生さんにはちょっと興味が薄いようです。数値データを使うので、どうしても理系っぽくて難しそうに思うんでしょうね。実際に数値データは別の研究者が出したものを使って、自分で解析そのものはしないんですが。
 そのため学生たちは、twitterや音楽といったテーマを選ぶ人が多いですね。Twitterのつぶやきの内容を解析して、それがポジティブなのかネガティブなのかを調べ、時間とともにその変化していく様子を可視化する学生もいますし、あるテレビ番組に関して視聴者たちがどんなつぶやきをしたか解析してその傾向を可視化しようとしている学生もいます。
 また「音楽の可視化」に取り組んだ学生もいます。気分によって聞きたい音楽は変わってきますが、たとえばクラシック音楽は基本的に演奏時間が長く、ものにとっては最後まで聴くのに1時間以上かかるものもあります。とはいえその楽曲全体の雰囲気を把握するためには、全て聞く必要がある。そこで、音階や曲調といったそれぞれの要素に関する数値を抽出して、それらを図形で表現することで、全てを聞かなくても全体の構造がわかるのではないか、という観点でのチャレンジでした。できあがった画像では、円盤のような図形が音符の長さや高さを表し、円盤の色が曲調の明るさや暗さといった雰囲気を表しています。明るい曲だと赤やオレンジの暖色が多くなり、短調の曲は青や紫が多くなります。可視化したことで曲全体の雰囲気が「目で見て」わかるようになり、聞きたい気分に合わせて「目で」曲を選ぶことができるというわけです。  また、クラシック音楽は指揮者や奏者によっても雰囲気が変わります。ですから同じ曲の画像でも異なる演奏者のものであれば、円盤の長さや大きさが変わっていて、違いが一目瞭然なのです。
 このようにデータ化できるものはなんでも可視化できるため、とても幅が広い分野といえるでしょう。

音楽の可視化
音楽の可視化

■今後の展望についてお聞かせください。

 近年、アメリカなどの海外では「可視化」の研究に対して大きな国家予算がつけられています。特に9.11のテロの後、それは顕著になりました。当時、データとしてはテロが起きる危険性は確認できていたものの、その解析がうまくできなかったためテロが起きてしまったという反省があるからだそうです。そこでアメリカは可視化の分野に関してかなりの予算をつけ、得られたデータの危険度を明確にするシステム作りに力を入れたようです。
 その結果、世界ではもちろん日本でも社会現象などの数字ではないデータの可視化を研究する人が圧倒的に多くなっています。私自身は、先ほども書いたように数値計算の可視化が好きでしたし、工学や医学という分野では三次元の解析が必要なので、個人的にはそちらに重点を置いています。とはいえ他大学の先生と共同で、「裁判の可視化」というプロジェクトにも取り組んでいます。
 裁判員制度ができて、専門家ではない人が裁判関連の資料を見る機会が増えましたが、そこで目にするデータはわかりやすいとはいえません。たとえば検死のデータなどは現在、統一のフォーマットがなく、グループごとに書き方が少しずつ違ったりしているそうです。それを統一して入力できるシステムを法医学の先生と一緒に考えています。

■最後に学生の皆さんにメッセージをお願いします。

 いまは世の中に様々なデータがあるので、自分の好きなことに関してはだいたいどんなものでも可視化することができるでしょう。データの取り方から工夫していくことで表現の可能性は広がりますし、反対に同じデータでも表現の仕方を変えると見えるものも変わってくるので、いろいろ試すのも楽しいと思います。
 たとえば先ほど触れた「音楽の可視化」の研究は大学院生がテーマにしたものですが、その学生さんは大学の卒論では、曲の雰囲気や法則にもとづいて模様を作っていました。細かい模様ならテンポが早くて、ゆったりした曲調だと大きい模様、というように模様で音楽を表現しなおしたのです。これは他大学の学生の例ですが、iPhoneに入っている曲のアイコンを模様にした人もいます。曲のイメージを模様に変換することで、タイトルではなく模様を見て、その時の気分にあった曲を選ぶことができるわけです。このように同じ音楽を扱っても、どう表現するかで可視化される結果は変わってきます。
 とはいえデータの対象に興味がないとこの研究は難しいですね。テーマそのものに興味があったり好きな人じゃないとやる気も出ませんし、こういう風に表現したらどうかなといった新しい発想が出るのも、そのテーマが好きだからこそ。ちなみに音楽の可視化をテーマにしたのは、自分もオーケストラに入っていた学生さんでした。クラシックの曲にこういう違いがあるということも分かっているから、いろいろなアイデアも出せたわけです。
 このように、データに興味があることが大切。それは言葉を返せば、自分の好きなことならなんでもテーマにできるということ。それが「可視化」の研究の面白いところだと思います。皆さんもぜひ自分が好きなことを「可視化」する方法を考えてみてください。

■メディア学部WEB:
/gakubu/media/index.html

?次回は9月9日に配信予定です。