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CGやグラフィックデザインは理論の塊。それらを基礎から積み重ねれば、センスも養えます!

2015年7月10日掲出

メディア学部 菊池 司 准教授

映画やゲームなどで欠かせないCG技術。その中でも特に表現が難しいとされている、自然現象のCGについて研究している菊池先生。今回は、研究室での取り組みを例にお話しいただきました。

■先生のご研究について、教えてください。

 私の研究室では、プロシージャルアニメーションとコンテンツデザインサイエンスの研究に取り組んでいます。まず、プロシージャルアニメーションとは何かというと、端的に言えば、CGによるビジュアルシミュレーションのことです。私は以前から、このビジュアルシミュレーションのなかでも、特に雲や雨、雷などの自然現象をCGで表現する研究をしてきました。最近は、みなさんCGをよく目にされているので、CGならどんなことでも表現できるという印象を持つかと思いますが、実際にはまだできないことがたくさんあります。できたとしても時間がものすごくかかるとか、難しいとされている現象がたくさんあるのです。その代表的なもののひとつが、自然現象です。

 では、具体的にどのようにCGで自然現象をビジュアルシミュレーションするのかというと、まず物理的に起こる現象を物理現象として正確にシミュレーションします。ところが、その結果を映像化したとき、それを見た人は意外とリアルに感じないんですね。というのも、人間が視覚的な経験をしたときに、勝手にこの現象はこういうものだと思い込んでしまう部分があって、その印象と実際に見た映像が一致しないと、リアルではないと感じるからです。ですから物理シミュレーションを正確に計算して、それを映像化しただけでは、必ずしもリアルには感じられない。それならば、人はどこの要素をリアルに感じるのか、極端に言えばどこをデフォルメするか、逆にどこは表現しなくてよいかということを考えて、ビジュアル的な要素を重視しながらシミュレーションしていきます。それがビジュアルシミュレーションと呼ばれる分野です。また、最近のCG業界では、それをプロシージャルアニメーションと呼ぶようになってきています。

 それからコンテンツデザインサイエンスの研究としては、シミュレーション系だけでなく、実写とCGの合成やセルアニメーションの研究などを手がけています。これはどちらかというと、制作プロセスの研究や実写とCGを合成したときに、人間がどこを見ていて、何を編集するとどう感じるのかといった人間の視覚的な要素を、感性評価や主観評価を取りながら研究して、コンテンツにフィードバックしていくということをしています。


研究での成果画像の例

■具体的な研究例としては、どのようなものがありますか?

 プロシージャルアニメーションの研究例を紹介しましょう。まずCGの基本を説明すると、その原理はパラパラ漫画と同じで、1秒間に30枚の静止画を連続再生します。そうすることで人間の目に残像が残るという効果を利用し、運動しているように見せているんです。ですから1秒の表現に30枚の絵をつくる必要があるわけですが、それを手でつくると大変ですよね。そこでアニメーションの付け方として、キーフレームアニメーションという基本の方法があります。これはあるキーとなるフレーム、つまりある時点でのポーズを決めておいて、それに至るまでの間、例えば3秒あれば絵を90枚つくるわけですが、それらを1枚1枚つくるのは大変なのでコンピュータが勝手につくって補完してくれるという方法です。CG制作現場では、そういうことができるソフトウェアが使われています。

 では、例えばビルが崩れて、窓ガラスが割れて飛び散る映画のシーンをつくろうと思ったら、どうでしょうか? ビルがどう崩れて、ガラスの破片ひとつひとつが次のフレームでどちら方向に飛んで行くのかを、いちいちキーフレームで入力していくことは、量が多すぎて無理ですよね。そこで、そういう細かい計算をすべてコンピュータに任せてシミュレーションをつくるというのが、プロシージャルアニメーションです。

 研究例としては、私が学生時代から取り組んできたものに、積乱雲のCGシミュレーションがあります。積乱雲の特徴は、内部からもくもくと雲が盛り上がり、外側にいくとどんどん雲が流れ落ちていくというものです。ところがそれをCGで表現しようとすると、外側の雲が下に流れ落ちていく様子を表現するのが意外と難しいんですね。それを何とかCGで表現してみようと取り組みました。

 具体的には、パーティクルと呼ばれる細かい粒子の集まりで構成した積乱雲のモデルをつくります。そこから1つ1つのパーティクルをどう動かせばよいか、内部からは強い力で押し上げられて、外部はどんどん流れ落ちて行くというモーションをつくり出すにはどうすればよいかということを考えました。まず、3次元のシミュレーション空間をコンピュータの中に定義し、その一番下に地面を設定して、メッシュと呼ばれる正方形で分割します。その中に温度分布をつくって、地面の温度に従って、その温度を持った粒子が地面から生まれてくるという設定にします。すると高い温度を持った粒子は、浮力が高くなるので、上へと上がっていきます。そのとき、外側の空気に接している粒子は、空気中に熱を放出するので温度が下がるはずです。その熱交換を計算して設定してやると、高い温度の粒子が外側へ行って熱が奪われ、温度が下がると浮力が弱まって、重力に負けて下に落ちる動きができるんですね。そういう手法で、内部からは押し上げられ、外部からは落ちて行くという積乱雲のリアルなモーションを実現しました。もちろんこれだけでは、雲っぽくないので、パーティクルひとつひとつに、ボリュームレンダリングと呼ばれるレンダリング技術を使って、雲に見えるモクモクとした質感を与えていき、CGを完成させていきます。

 また、この雲のCG表現を別の自然現象に応用する試みも行いました。それが雪崩です。実際の雪崩の映像を見たときに、雲をひっくり返すと雪崩っぽいなと思って取り組み、学会で発表しました。雪崩と雲の発生では、けむりや軽さ、質感が違うので、それぞれに細かい表現の工夫は必要ですが、このように原理的な技術を応用していくことも可能です。


雲のCGと雪崩のCG


卒研ミーティング風景

■自然現象をCG化するために大切にしていることとは何でしょう? また、研究の魅力とはどんなところにありますか?

 とにかく、表現したい自然現象を徹底的に観察することです。とことん観察して、その特徴を掴み、何を再現してあげるとリアルな現象に見えるかを考えることが大切です。また、目の前にあるリアルな自然現象の原理は、実際に目で見て感じる以上に複雑です。ですから、それを映像化しようと思ったときに、色々なことを考えないといけない。簡単にはつくれないので、それこそ夢でうなされるくらい、観察しないといけません。そのくらい苦しんで、映像化したときの充実感や作品化されたときの達成感は、癖になる魅力があります。また、CGで作品をつくることは、地味な作業の連続です。コンピュータに向かって黙々と作業します。ですが完成したら、視覚的に訴えるものがある迫力ある映像になるので、そのギャップも楽しいところです。


授業風景

■学生は、研究にどのように関わるのでしょうか?

 私の研究室に所属した学生は、自分がCGで表現したい現象など、自分なりにテーマを見つけて卒業研究に取り組んでもらいます。また、その前段として、2年生からのプロジェクト演習という授業で、「プロシージャルアニメーション」というプロジェクトを立ち上げています。これは、先ほどお話ししたような研究に至るまでの準備段階として、いろいろな現象をどういう手続きで表現していくかということの練習をしてもらっています。主に、プロシージャルアニメーションに使う「Houdini」というソフトウェアのトレーニングやオペレーションを勉強してもらう、個人的なスキルアップを主眼に置いたプロジェクトですね。ここから興味を持った学生が、研究室に所属して、表現したい現象を決めて本格的に研究に取り組むという流れが多くなっています。

 また、この分野は、大学の研究でも世界と十分競争できます。新しい技術を発表しやすく、国際的な学会で発表して認められれば、その技術はすぐにソフトウェアに組み込まれたり、映画制作に取り入れられたりします。ですから、研究のしがいはあると思いますよ。

■では、学生には、どのようなことを身につけてほしいと思いますか?

 研究ではCG映像を扱っていますが、1年生の授業では、グラフィックデザインやウェブデザインも教えています。授業で学生さんと接していて思うのは、CG映像やグラフィックデザイン、ウェブデザインなど、格好良いものをつくるには、もともとのセンスがないとできないと思い込んでいる人が多いということです。ですがセンスというものは、生まれながらにして持っているものではありません。勉強して身につくものです。CGやグラフィックデザインは、理論の塊です。グラフィック作品で美しくて格好良いものをつくろうと思ったら、それなりの理論があります。大学では、そういうものを基礎からしっかり積み上げて学んでほしいですね。そうすれば、自分でも美しいCG表現や格好良いグラフィック作品がつくれます。また、学んだことを日々、身近な生活の中で意識して過ごせば、センスは自ずと養われるはずです。そういう経験を、ぜひ大学でしてほしいと思います。


オープンキャンパスでの風景

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授業風景

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 CGの世界はかなり技術が上がってきていますが、それでも研究することは多々あります。今は、CGを使って映像をつくる機会が増えているので、要求はどんどん上がってきています。シミュレーションも単にリアルさだけでなく、例えば水が何かの形に変化するというように形状をコントロールすることが求められています。私の研究室でも、そこが狙い目だと思って、研究に取り組んでいるところです。例えば、雲の形をコントロールしてキャラクターに変化させたり、水の中に墨汁を落として、それが広がっていく様子をシミュレーションし、その拡散現象の形を龍などの形にコントロールしたり。あるいは、リアルな稲妻を星型に光らせるといったことにも取り組み中です。

 大きな展望としては、これまでも面白いと思ったものをCGにしてきているので、今後も色々なものをCGで表現して、ディテールの表現の幅を広げていきたいと思っています。そういう意味では、実際に映画などで使われる技術を開発してみたいという思いはありますね。自分の名前がついた技術や理論ができたらうれしいですし、卒業生が映像プロダクションで活躍しているので、彼らと一緒に仕事ができれば、それも面白いかもしれません。

■メディア学部WEB
/gakubu/media/index.html

?次回は8月10日に配信予定です。