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世界中のクリエーターの知識をデジタル化して、映像コンテンツ制作に活かしたい

メディア学部 近藤 邦雄 教授

メディア学部 近藤 邦雄 教授

コンピュータグラフィックスの黎明期である1970年代からその研究に携わり、CGの基本技術や新技術の開発に取り組んできた近藤先生。本学ではこれまでの経歴を活かし、思い描いた通りの映像コンテンツを制作するためのシステムやソフトウェア開発などを指導している。今回は、そのプロジェクトの一端について伺った。

人の形状理解を助けるCG画像

■先生のご研究について教えてください。

私の専門は、コンピュータグラフィックス(以下CG)になります。その中でも、人にうまく伝える、コミュニケーションを助けるための表現方法について研究をしてきました。私が研究を始めた1970年~80年代当時のCGは、工学部の人が物理計算をして光をシミュレーションし、写真のようなリアルな絵を描こう、つくろうという“フォトリアリスティック(photo realistic)”が主流の時代でした。そんな80年代の頃に、私はそうした時代の流れとは違った、非写実的な画像表現について研究していたんです。というのも、単にきれいでリアルな絵を描くことより、相手に何を理解させたいかということが重要だと考えたからです。例えば、新聞では、写真と似顔絵を使いわけていますよね? それは理解させたいこと、伝えたいことが異なるからです。つまり相手に理解させたいことによって、表現方法は違ってくるのです。CGも同じで、何を伝えたいかによって、使う技術は変わってくる。ですから相手に対してわかりやすい絵をどう描くかという「理解と表現」が重要だと考えたんです。すごく簡単な言い方をすれば、闇夜にカラスがいて、真っ暗な中で写真を撮っても、どこにカラスがいるのかはわかりません。そこにカラスがいるということを伝えたければ、輪郭線を描くなり、カラスの色を少し変えるなりして強調や誇張をし、そこにカラスがいるとわかるように描きますよね。それは真実とは違いますが、伝えたいことをうまく伝えていると言えます。90年代に入るとこうした写実的でない映像を作るCG技術を“ノン?フォトリアリスティック?レンダリング(NPR)”といいます。私はこのNPRの研究を、その言葉が生まれる以前の、80年代から追究してきました。
ただ、本学ではそうしたCGの基礎技術だけでなく、CGを使った映像コンテンツ制作全体を通じて必要となるシステムや制作の効率化、あるいはすでにある技術をうまく利用する手法などの研究に取り組んでいます。これは非常に幅広い分野にわたる研究ですので、私一人ではなく、メディア学部の客員教授である金子満先生と三上浩司准教授と一緒に研究しています。

映像コンテンツ制作の構造

■具体的には、どのような研究なのでしょうか?

シナリオ制作、キャラクター制作、演出としてのライティングシミュレーション、カメラワークのシミュレーションなどを併せてできる映像コンテンツ制作システムの開発を行っています。例えば、映像に登場するキャラクターをつくると聞くと、多くの方は絵の上手なデザイナーが実質的に考えるというイメージを持っているのではないでしょうか? ところが実際はそうではありません。キャラクターはただ格好いいだけではダメで、その映像のストーリー内で生き生きとストーリーを伝える存在である必要があります。そこがポイントです。例えば、あるキャラクターをデザインする時、ストーリーを踏まえたキャラクター像を頭で描いているのはプロデューサーですが、それを形にするのはデザイナーの仕事になります。そうすると、絵の描けないプロデューサーがいくら口頭でデザイナーに指示を出しても、なかなかうまく伝わらないということが起きます。そうしたコミュニケーションギャップにより、キャラクターデザインに何度も修正が加えられ、制作効率は悪くなります。私たちが開発しているシステムは、そういう部分を支援するものです。昔からある、さまざまなキャラクターの画像を集めてきて、スクラップブックをつくり、そこから使えるものを検索し、組み合わせることで、思い描くキャラクターの原案をつくることができるというシステムです。キャラクターをスクラップブック化する際は、温かい、冷たい、真面目、不真面目といったキャラクターの設定ごとに分類します。それは見た目の印象ではなく、そのキャラクターが使われているストーリーの設定に則った分類です。そうしてできたスクラップブックからコラージュといって福笑いのように、さまざまな既存のキャラクターのパーツを組み合わせて、自分が思い描いているものをつくります。このシステムを使えば、絵が描けない人でも自分が思っているキャラクターのイメージを具体化することが可能です。ある程度つくりたいキャラクターの雰囲気ができたら、今度はそれを参考にデザイナーに描き起こしてもらったり、自分たちで描き直したりして、オリジナルのキャラクターをつくっていきます。
現在、このシステムは、キャラクターの原案をつくるところからさらに発展して、自分たちなりのキャラクターをつくるというところまで整いつつあります。キャラクターの表情や動き、光の演出なども含めて、より良く見せることができるシステムを学生と一緒に開発しているのです。また、キャラクター制作にとどまらず、シナリオ制作やカメラワークなどの演出面でも、同様にデータベースとなるスクラップブックをつくり、それを使って制作を支援するシステムを開発しています。スクラップブックにたくさんのクリエーターの知識を貯めることができれば、勉強にも制作にも使えます。私たちは、世界中のクリエーターの知識をデジタルにしたいと思っているんですよ。映画監督やモデラーの方たちの知識をすべてデジタル化して、利用できるようにしたいのです。例えば、著名なアニメーター本人でしかできないような技術をデジタル化することで整理し、その人がどういうことを考えて、どういうところをポイントとしたのかを明確にする。そうすれば感性やセンスとされていた部分に説明がつけられるようになります。そういうことを映像コンテンツの世界で実現させたいと思っています。

CGを使った映像コンテンツ制作

「CG制作技法の基礎」の2年生の作品例

■こうした研究を通して、学生にはどんなことを学んでほしいですか?

このプロジェクトは単に映像コンテンツを制作するだけでなく、最終的に社会に発信するというマネジメント部分まで含んでいます。映像をつくるだけなら、芸術系の人たちも手がけています。ではそこと何が違うのかと言うと、つくったものがきちんと社会に向けて発信でき、その対価をきちんと得られるようにしなければならないということです。学生には、その部分も含めてコンテンツ制作を捉えてほしいと思っています。また、創造というのは、突然、ポンと生まれてくるわけではないという点も大事です。さまざまな知識を知って、見て、それを組み合わせることによって新しいものが生まれます。どんなクリエーターも経験したものや勉強してきたものがベースにあって、初めてアイデアが出てくるんです。ですからたくさん勉強したり、体験したりすることで、良い感性ができるとも言えます。また、自分が実現したいと思っている表現が、今あるソフトウェアや技術ではできないとき、諦めるのではなく、新たに自分たちで開発すればいいと思える人になってほしいですね。もちろん、すでにあるものを最大限に利用することは当然です。ただ、まだない技術だからといって諦めるのではなく、新たな技術を生み出してほしいのです。そういう気持ちを、メディア学部の学生なら持てるのではないかと思います。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

大学は新しい知識の伝達、つまりうまく伝えていくコミュニケーションがあります。それが研究機関としての大学の役割です。また、大学は教育機関でもあります。その面から言えば、学生や社会にうまく伝えていくコミュニケーションが大事になります。その「知識の創造、蓄積、伝達」という3つを考えながら、今後も映像制作にあたっていきたいと思っています。またメディア学部は、ひとつの道具をつくるだけでなく、仕事や産業のことも学び、技術もコンテンツもコンピュータも学べる学部ですから、そこで育った学生はそれらの知識を統合した人間になっているはずです。学生の中には「広く浅くで、専門を持つ人より劣るような気がする」なんてことを言う人もいますが、全部を知っている人材というのは実は少ないんです。例えば、優れたプログラマーと優れたアーティストがいて、二人の考えがまったく噛み合わない時、その間に入れるのはメディア学部で学んだ学生だと言えます。プログラマーのこともアーティストの考え方もわかりますから。私としては、CGエンジニアはもとより、そういうテクニカルアーティストも本学で育てたいと思っています。

■メディア学部 近藤邦雄 教授個人ページ
/info/lab/teacher/index.html?id=1547

?次回は6月8日に配信予定です。

2012年5月11日掲出