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「これまでの通信では伝えていない、香りや触感などの情報を通信で伝えたい」

コンピュータサイエンス学部 三田地成幸 教授

コンピュータサイエンス学部 三田地成幸 教授

長年、NTTで光ファイバや光コネクタ、先端光エレクトロニクスデバイスの研究に従事してきた三田地先生。研究室でも光ファイバなどを用いた、実用的でユニークなセンサの研究開発に取り組んでいます。今回は、代表的な研究を取り上げて、お話しいただきました。

■先生の研究室では、どのような研究に取り組んでいるのですか?

研究室では、安心、安全、健康生活を目的に、生活の中にある身近なセンサ“ヒューマンシグナルインターフェイス”の研究開発を行っています。例えば、健康生活を目的とした研究に、光ファイバを用いた睡眠時無呼吸センサの開発があります。睡眠時無呼吸症候群とは、1晩の睡眠中に10秒以上の無呼吸や低呼吸が30回以上、または睡眠1時間あたりで無呼吸?低呼吸が5回以上起きる病気のことです。この病気の患者は、睡眠中に呼吸が止まり息苦しくなるため、睡眠が浅く、熟睡感がないことから、例えば昼間、強い眠気に襲われる症状が現れます。その結果、交通事故や産業事故を引き起こす要因にもなっているのです。今、医療機関ではこの病気の確定診断に、Polysomnograpy(PSG)という技術が用いられています。ところがこのPSGは、頭や身体にたくさんのセンサをつけなければなりません。実際に、私も測定してもらった経験があるのですが、たくさんの装置や電極をつけるため、寝返りも打てませんし、熟睡することはできませんでした。
そこで当研究室で開発したのが、光ファイバ型睡眠時無呼吸センサです。センサ部分は、黒い布地の中に光ファイバが一筆書きのように入ったシートになっています。厚さは3.5mmと薄いので、敷布団やベッドのシーツの下に敷いて眠るだけで、睡眠時の無呼吸を測定することが可能です。原理を説明しましょう。まず、このシートの光ファイバをセンサ制御部に接続します。すると制御部から光ファイバの中に、LEDの光が伝送されます。その状態で光ファイバにわずかでも側圧がかかると、光が減衰し、それに応じて測定数値が変動します。これによって肺の動き、すなわち呼吸しているかどうかを調べることができるのです。現在は、実用化直前という段階まで来ています。今、ちょうど複数の病院で臨床試験を行っていて、従来のPSGと光ファイバ型睡眠時無呼吸センサの相関関係を調べているところです。現状、非常に強い相関関係がある、つまりPSGにそん色なく測定できているという結果が出ています。ただ、光ファイバ型センサには、限界もあります。

光ファイバ型睡眠時無呼吸センサ

■どういった点が“限界”なのでしょうか?

光ファイバ型睡眠時無呼吸センサの場合、脳波計をつけていないので、寝返りや体動で就寝中であることはわかるのですが、本当に脳が寝ているかどうかまではわかりません。ですから、どうしても無呼吸低呼吸指数の数値が低く出てきます。PSGで測定して大きな値が出る人、つまり重症の患者さんであればあるほど、私たちのセンサの数値は割合として低く出ます。というのも、私たちのセンサはベッドで横になっている総臥床時間で数値を割り出しているのに対し、PSGのほうは脳波で判定した睡眠時間で割り出しているからです。患者は、無呼吸が始まると息が苦しいので、すぐに目を覚まします。つまり総臥床時間より睡眠時間の方が、はるかに短くなるのです。ですから、この光ファイバ型睡眠時無呼吸センサは、確定診断には使用せず、病院で精密検査を受けたほうが良いという人を見つけ出す、スクリーニングに使うことを考えています。ですから複数の人が同時に測定できるよう多チャンネル化して、人間ドックやビジネスホテルで利用できるようにしようと考えています。例えば、ビジネスホテルのフロントでID登録をして、この装置を借り、一晩測定します。記録された測定データは、ネットワークを通じて分析サーバーに自動的に送られ、医療センターなどで解析されます。その解析結果を、ID登録した方のスマートフォンや携帯電話のメールへ送信するというような利用方法を想定しています。

■他にはどんな研究に取り組んでいますか?

メディア学部の相川清明先生と共同研究している「香りを語るコンピュータ」の開発があります。これは半導体ニオイセンサを用いて、バラの香りからその種類を判別するというもので、事前に蓄積したバラの香りのデータからコンピュータがニオイ成分の近いものを割り出し、バラの名前を語ります。今、取り組んでいるのは、その判別をより早くする研究です。これまで市販のセンサを用いていたため、判別に2分くらいかかっていました。それをもっと短く、20秒くらいでできるようにしようと新しい試作機を使って取り組んでいます。また、この研究に関連しますが、ニオイセンサを三田地研オリジナルのものにできないかと思い、バイオミメティックニオイセンサの研究も行っています。なんとニンジンなどに含まれているβカロチンを用いたセンサです。βカロチンのパウダーを2枚の電極で挟み、その電気伝導度をさまざまなガスの中で測ると、私たちがニオイだと感じるアンモニアやエタノールなどの物質の場合に、著しく導電率が増えるのです。このことは、1961年にローゼンバーグらによって、すでに明らかにされています。私たちはそれを利用して、今、新しいニオイセンサを開発しようとしているのです。当研究室ではβカロチンのパウダーではなく、鼻の粘膜のような液体状のところにβカロチンを分散させて、実験を行ってみました。すると、パウダーを使ってメタノールを測ったときの応答時間が1時間20分もかかったのに対して、粘膜のような液体状では、5秒で応答することがわかったのです。このセンサは、魚の腐ったニオイや加熱した油のニオイにも応答するので、冷蔵庫内のニオイセンサや、天ぷら油などによる火災をニオイの時点で知らせられるアラームなど、家庭用センサとして仕上げようと、研究をがんばっているところです。もちろん「香りを語るコンピュータ」のセンサにも適用しようと考えています。

香りを語るコンピュータシステム

■先生は、光ファイバをご専門とされていますが、ニオイセンサはまた違った角度ですね。

私はNTTで光通信用の部品材料研究をしてきました。そのとき、通信で伝えているものは何だろうかと考えたんです。通信で伝えているのは、音声と画像です。耳と目の情報ですね。逆に伝えていないものには、嗅覚、触覚、そして味覚の情報があります。そこで、2001年に本学へ来たとき、通信では伝えていないものを伝える研究をしようと思ったんです。それでヒューマンシグナルインターフェイスというものを考え始め、特に触覚と嗅覚に興味を持って、研究をスタートさせました。触覚の研究には、光ファイバの側圧が利用できるということで、最初は防犯センサの研究から始まり、睡眠時無呼吸症センサに発展しました。嗅覚の研究では、バイオミメティックニオイセンサのそれが当てはまります。

野外でのバラの香りの測定とPC上の表示

■なるほど。では最後に今後の展望をお聞かせください。

ちょうどバイオニクス学部からコンピュータサイエンス学部へ所属が変わったこともあり、初心に帰って、初期の目的を達成して定年を迎えたいと思っています。初期の目的とは、今、お話しした“通信で伝えていない情報を伝えたい”ということです。今までいろいろなセンサを開発してきましたが、そこで得た情報を今度は通信の中に持ち込み、ネットワークの中で情報として伝えていくことを考えています。例えば、バラの香りの表現をバラの種類で言われてもわかりませんよね? ところが「レモンのような香り」とか「リンゴのような香り」とか、身近なものに例えて表現するとイメージができます。本物の匂いを嗅がなくても、情報を受け取った人の脳が持っているデータベースの中からイメージを引き出し、ニオイの感覚として想起させる。情報を送った先、つまり受け手側に、いかに送り側と同等の体感をもたせるかという仕組みの研究に、今後は力を入れていくつもりです。
[2011年7月取材]

■光エレクトロニクス研究室(三田地研究室)
/info/lab/project/com/dep.html?id=136

?次回は10月14日に配信予定です。

2011年9月9日掲出