2021年工学部長メッセージ
「変革の時代のはざまに」山下 俊
みなさんの高校生活最後の1年はコロナウィルスに翻弄された年となりました。勉学が制限され、友達との思い出作りもできず、また大学受験への不安にも駆られていることと思います。
大学にとってもこの1年は試練の年でした。本学では得意とするICT技術を活用し4月のロックダウンに伴い速やかに支障なく遠隔授業を実施することができました。遠隔授業はただ課題を与えるだけではなく、リアルタイムでのディスカッションや課題へのフィードバック、学生相互のコミュニケーションを織り交ぜて実施され、教員は日々オンライン教材の作成とそのフォローであっという間に半年が過ぎました。7月からはようやく対面授業がはじまり、大学の実験室を活用して学生待望の実験も始まりました。本学に初めて足を踏み入れる1年生もこれまでオンライン上でしか話すことしかできなかった友達と交流し感慨を新たにしました。
この半年余りの遠隔授業を振り返ってみると、従来の教育システムにはなかった新たな教育メソッドが取り入れられ、意外にも教育効果が上がったという側面もありました。コロナ禍はある意味において高等教育における「黒船」だったかもしれません。一方で、大学での学びはこれまでみなさんが高校までに経験してきた学習とは異なり、最終的には答えのない問題に取り組み人それぞれに異なる答えを見出すこと、あるいは、その問題自体を見出す力を身に着けることにあります。そのためにはただ効率よく知識を伝授するだけではなく、グループワークやディスカッションを通したアクティブラーニングや、問題解決力、コミュニケーション力を養う「人を育てる」教育を欠かすことはできません。このような観点から工学部においても本学の恵まれた環境と先端研究設備を活用し、工学の魅力を体感できる対面授業をベースとし、それに遠隔授業で培ったコンテンツを加味した新しい先進教育システムを構築しています。桜が花開きみなさんが大学に入るときには、みなさんは新しい時代の新しい教育を享受できることを楽しみにしていてください。
コロナ禍によって皆さんの生活が一変したことは大変残念なことでした。しかしこれまで皆さんの先輩もリーマンショックやオイルショック、あるいは戦争など人の運命を変える数々の試練を経験してきました。もっと大きな時間軸で世界を見たとき、我々人類全体は従来の発展型の社会から持続成長可能なサステイナブル社会に変革しなければならないという大きな試練に直面しています。
工学は人々が快適な暮らしができるための様々なものづくりにより生活の改善と社会の発展に寄与してきました。しかし、これまでのようにただ優れたものを作りさえすればよいという活動により地球に負荷をかけ続けていると、資源が枯渇し、環境が破壊され、あるいは温暖化による気候変動がおこり、あるとき突然今回のコロナ禍のような大きなディザスターに見舞われることになります。環境に負荷をかけず、資源を循環させ、しかし同時に社会や人の生活を豊かにすることができるサステイナブル工学が今まさに人類に求められている新しい学問なのです。
みなさんはこのような大きな時代の変革のはざまに身をおいています。サステイナブル工学を身につけ、地球の未来を変える技術、明日の生活を変える活力を我々と共に、皆さん自身の手で切り拓いてゆきましょう。
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