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10年後、100年後の日本や世界、地球に役立つ化学技術を一緒に研究しよう!

2014年11月14日掲出

工学部 応用化学科 山下 俊 教授

工学部応用化学科 山下 俊 教授

先進的な材料の設計や合成などの化学研究に取り組むことで、持続して発展する社会の実現を目指す工学部応用化学科。2015年春からのスタートに向けて、学科の特徴や教育について、学科長の山下先生にお話しいただきました。

■来年度から始まる工学部応用化学科は、どんな特徴を持つ学科ですか?

 応用化学科の特徴は、基幹となる重要な化学分野をすべて網羅した学科構成になっていることが挙げられます。化学には、有機化学、無機化学、物理化学、生物化学、電気化学、錯体化学など、幅広い分野があります。最近の大学ではその幅広い化学の中の一部分に特化して研究教育を行うような改組を行ったところも少なくありませんが、偏った教育では結果的に大きな飛躍を遂げることができませんでした。本学科はオーソドックスにすべての基幹的な化学を教育することによって幅広い知識を養うことができ、その広い知識の上に深い専門を築くことによって革新的な技術開発を行うような応用力をつけることが可能になっています。このような分野を超えた広い知識は、本工学部のコンセプトである持続して発展する社会(サステイナブル社会)を実現するための工学という新しい技術を応用化学の立場から拓く上でも必須であり、非常に効果的な教育?研究組織となっています。

 もうひとつの特徴は、本学のコンセプトでもある実学教育を重視している点です。社会に出て化学系企業に就職し開発を始めたときに求められる能力や技能は材料の物性を操る能力です。しかしほとんどの大学では材料をいかにつくるかという合成や分析のみに主眼が置かれ、材料の力学物性など物性教育を実践的に行っているところはありません。東京工科大学の応用化学科では、合成?分析に加えて、材料の引張強度や熱物性などの材料物性の解析を学生実験プログラムに入れることにより、多様な視点から材料を扱える人材を育成します。

応用化学科の学び

■持続して発展する社会につながる化学教育とは、具体的にどのようなものですか?

 工業立国としての日本の今日の繁栄は、重化学工業を柱として半導体産業や高分子材料などの産業が経済を牽引してきたからに他なりません。社会でIT不況と言われた際にも日本の化学メーカーは大きな収益を上げていました。これは、パソコンやスマホなどのICT機器を製造する際に使われる材料のほぼ100%近くのシェアを日本の化学メーカーが占めているためで、加工や製造の拠点が安価に行われる発展途上国に移っても、ノウハウに満ちた材料は外国のメーカーが真似することはできなかったからです。このように最先端の優れた材料を生み出すために莫大な研究が行われてきました。ところが化学工業の発展は社会に公害問題を引き起こしました。良い製品ができても社会が住みにくくなってはトータルで見て社会の発展とは呼べないという概念が広まり、同じ材料を生産するにしても環境を汚染しない化学技術が求められ、その概念を満たす新しい化学技術が開発されたわけです。一方で、環境を保全するために材料の使用が制限されたり莫大なコストをかけて環境の浄化を行っていては結果として人々の生活が苦しくなって本末転倒です。持続して発展する社会を築くということは、人間、社会、環境いずれにも利益をもたらすさらに新しい化学技術を築くことなのです。

 たとえば、石油が枯渇したらどうなるでしょう?エネルギーとしては太陽光発電や原子力などの代替技術が開発されています。ところが医薬品や有機材料などの化学物質を石油以外から得る技術はまだありません。本学では今年から農林水産省や経済産業省主導で始まる国家プロジェクトに参加し、リグニンを使って優れた機能をもつ材料を開発しています。リグニンとは木材に30%位含まれる成分で、これまではセルロースを使って紙を作るときに妨げとなる物質として廃棄されていました。ところが、リグニンはポリフェノール構造をもつため石油に代わり機能材料を生み出すことができるのです。さらにそれらは天然由来物質なので使用後は生分解させることにより環境に負担をかけることなく廃棄?リサイクルできます。

 また、我々の研究グループでは精密に分子構造を制御することによって光を当てると自動的に回路ができるという革新的な材料を開発することに成功しています。この技術を用いるとICTデバイスを作成する際に製造エネルギーや廃棄物を低減し、環境にやさしいものづくりを実現するとともに、従来の技術では達成できなかったフレキシブルディスプレイの実用化にも使われようとしています。本学科の学生は卒業課題としてこのような世界の最先端の研究に従事し自分の身をもって「持続可能な豊かな社会」につながる科学技術を身に着けてゆくことができるのです。

実験に参加
体験実験や、学科相談の様子

 そのために1年生から3年生までは系統的な学習プログラムに基づいて効果的に化学の基礎力と実践力を学ぶようになっています。まず学部共通の基礎教育により豊かな教養を身に着けます。次いで学科独自の化学基幹科目で確実な化学の基礎力を身に着けます。これらの教育において英語の教科書を用いるなどグローバルな視野も養うことができます。専門科目では化学の基礎の上に深い専門知識を築きます。これらの専門科目の中には持続可能な社会を築くための化学技術に関連した「サステイナブル科目」があります。「サステイナブル化学概論」で持続可能な豊かな社会の実現につながる化学の全体像を学んだ後、「サステイナブル材料化学」、「サステイナブルエネルギー化学」、「サステイナブル応用化学」といった授業で、材料、エネルギー、応用分野の最前線を学んでいきます。「サステイナブルエネルギー化学」の講義ではエネルギーの観点から持続可能な豊かな社会をつくるための化学の最前線を学びます。たとえば、太陽光発電はすでに世の中に広まっていますが、太陽光のエネルギーを用いて有用な化学物質を生み出す人工光合成は次世代のエネルギー技術として世界的に注目されています。本学科の森本講師はこの分野で世界的に有名な研究者で、彼が開発した材料は光エネルギーの変換効率が82%で、世界のチャンピオンデータとなっています。学生はこのように世界の最前線を身近に感じながら実践的な内容の講義を受けることができるのです。

■応用化学科で特にアピールしたいことをお聞かせください。

 ひとつは、教育研究設備が非常に充実している点です。今回、応用化学科をつくるにあたり最先端の化学の研究を遂行するのに必要となる様々な大型装置をほぼ網羅的に導入しました。これらは非常に高価なため普通の大学ではすべて揃えることはできませんし、あるいは部分的に学内で共通に使用する設備として備えてある場合が多いですが、本学科ではそれらをすべて備えています。学生がこれらの最先端の機器を用いた研究教育を受けると、ただ単にそれらの装置の使用経験があるというだけではなく、最先端の解析法やそれを通した材料の見方を身に着けることができ、机上の学問では得ることのできない研究者としての能力を身に着けることができるわけです。

 また、これは応用化学科だけでなく本学全体で言えることですが、世界的に活躍している有力な先生方が揃っている点です。教授たちの視野が常に世界の最前線に向かって開かれているので、学生はそういう先生のもとで学ぶことによって先端研究に触れられ、また科学技術の将来を見据える能力を養うことができるのです。さらにこれまでご説明した優れた教育プログラムがあります。豊かなキャンパス環境、充実した研究装置と教育プログラム、そして優れた教授陣、この3つが揃っている大学は国内ではほとんどなく、アメリカのMITやスタンフォードなどと肩を並べられる魅力的な環境であると思います。

 学生たちの進路となる化学業界について触れますと、先にIT不況の例でもご説明したように日本の化学メーカーは高い技術力と国際競争力をもつおかげで産業に勢いがあり、学生の就職率や平均給与も高くなっています。このような実益だけではなく、自分の手で優れた機能をもつ新しい分子を生み出せるわくわくするような化学の世界がとても魅力的です。

バイオナノテクセンター
バイオナノテクセンター
(電子顕微鏡(TEM)、エリプソメータ、リソグラフィー装置などの先端科学技術装置が利用できます)

■最後に、応用化学科では、どのような人に入学してほしいとお考えですか?

 化学の力を通して、環境?人間?社会の幸せを同時に満たすような社会(サステイナブル社会)をつくる新しい先端技術を自分で切り開きたい、そして、それによって社会や地球のために役立ちたいというモチベーションを持っている学生に入ってほしいと思っています。ただし、そのためには具体的に何を作ればよいのか、何を研究すればよいのか受験生の時点で知ることは非常に難しいことであり、必ずしも知っている必要はありません。化学が好きで実験が好きであること、世の中の役に立つものや優れた機能をもつ材料を作ることに憬れや夢をもっていれば、本学の恵まれた環境でどんどん成長できると思います。化学は他の学問と異なり、職人の世界であるといわれます。もちろん化学の反応論などの理論はあるのですが、まずは物質を見て、触って、反応させて実験をしてみて、そこから重要なことを学び取るのです。ところが化学の実験の多くは失敗の繰り返しです。そしてその失敗、すなわち想定外の中に大発見が潜んでいるのです。ノーベル化学賞に輝く多くの業績は触媒の量を1000倍間違えて入れてしまったとか、フラスコの洗い方が足りなくて、余計な金属が残留していたために想定外の反応が起きたとか、失敗した中から発見されています。そういう発見は机に座って一生懸命本を読んで理論を勉強していても見つけられるものではありません。だから実験が好きであるということが重要なのです。それは、もはや自分のキャリアアップのためとか、持続可能な社会を築くためとかの目的を通り越して、純粋な化学に対する憬れに根ざしているのではないかと思うのです。自分のフラスコの中で蛍光物質を光らせたり、においを嗅いだり、五感で感じて学ぶというのが化学の醍醐味です。学生たちと化学の楽しさを分かち合いながら、次の世代を担う新しい先端技術を開発してゆきたいと思っています。

■工学部WEB
/gakubu/eng/index.html

?次回は12月12日に配信予定です。