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さまざまな形で「音楽を楽しむ」新たな方法を提供していきたい!

2017年3月10日掲出

メディア学部 吉岡英樹 講師

メディア学部 吉岡英樹 講師

作り手側から音楽の世界に関わりはじめ、現在は「音楽」「ビジネス」「メディア」をキーワードとした研究を行っている吉岡先生。メディアの変遷と音楽ビジネスとの関係。さらに地域社会における情報発信などについてお聞きしました。

■先生の研究テーマについて教えてください。

 その昔、音楽といえば「レコード」というメディアが中心でした。そもそも日本では講談社という出版社のなかにレコード部という部署ができたのが最初だったんです。今の時代にたとえるならテレビ局がスマホアプリを作ってみようか、といった感じに近いでしょう。それがラジオやテレビの発達で大きなビジネスへと成長し、さらにインターネットによって世界中の音楽が多くの人たちと共有できるようになりました。最新の音楽配信サービスには、自分好みの音楽を人工知能が紹介してくれるものもあります。
このように音楽ビジネスというのは、常に新しいメディアを活用して変化してきました。そういった観点から音楽ビジネスとメディアの関係などについて研究しています。
担当している1年次の講義『音楽産業入門』では、そもそもエジソンが蓄音機という「録音」の技術を発明したところからはじまって最先端の音楽ビジネスまで、メディア技術の変遷と音楽ビジネスの関係について教えています。 特にデジタルデータの場合、音楽は映像と比べて容量がとても小さくて扱いやすい。そのためインターネットや携帯電話といった新しいメディアが出てくると、まずは音楽ビジネスでいろいろなことが試されるのです。たとえば「着メロ」「着うた」などの配信がそうで、これはビジネスとしても成り立ってきた。もちろんそこには成功例だけでなく、失敗や陰の部分もありました。ですから音楽ビジネスのこれまでをしっかり理解しておくと、これから起こることが予測でき、次になにをすればいいかを考えるヒントが学べる。そんな観点で授業をしています。

■今後の音楽ビジネスはどのような形になっていくのでしょうか。

 昨年、Spotifyという音楽配信サービスがようやく日本でも使えるようになりました。これは月額定額で4000万曲以上の音楽が聴き放題というサービスで、アメリカのレコード会社が株主になっているので、世界中で聞かれている多様なコンテンツが配信されています。スタートしてから既に7?8年は経ち、ここ数年、授業でもずっと紹介していたんですが、なかなか日本には入ってこなかったので、どう説明したものかと困っていたんです(笑)。
 Spotifyは、一人から得られる収入は非常に少ないのですが、着実にユーザー数を増やし、広告などの新たなビジネスモデルも作り、現在ではかなり収益をあげています。しかもそれをきちんとアーティストへ分配していて、その額もマーケットが大きくなることで、どんどん増えているのです。ここにきて、ようやく音楽産業の新しい形が見えてきたなという気がします。 実はインターネットを使った音楽のダウンロード販売というのは、あまりうまくいかなかったんです。ネットがこれだけ普及した今の社会で音楽を聞くスタイルとして、一曲一曲買うという形よりも、定額でラジオのようにどんどん新しいものを聞き流していくという形の方が馴染みやすかったのかもしれません。所有するのではなく、どんどん動かしていく。最近では、たとえば洋服をネットで借りて返す、というような仕組みもあるようですから、その流れは音楽に限らないと思います。むしろ音楽ビジネスの流れが、今後のビジネスのトレンドを先取りしているという面もあるでしょう。
 Spotifyは人工知能を利用したユーザーへのリコメンド機能を充実させています。かなり複雑なアルゴリズムになっていて、さらにディープラーニングを使ってどんどん学習していく。そういうシステムが、他のジャンルに影響を与えていくこともあるかもしれません。

■研究室ではどのような研究を行っているのですか。

 Spotifyもそうですが、これからはネット上でも現実社会でも、情報を収集していかにそれを提供していくかという「キュレーション」が重要になっていくと思います。メディア学部では企業との共同研究の一環としてWEB、デジタルサイネージ、ビーコン連動型スマホアプリを使った「Musicinvitee」という音楽情報キュレーションプラットフォームを開発しました。2、3年生が受ける専門演習「音楽情報キュレーション」では、それを利用していろいろなコンテンツを作り、音楽情報を発信する演習を行っています。
 同じ情報でも、デジタルサイネージは一瞬しか見られないのに対し、スマホではより詳しい情報が求められます。メディアの特徴によって情報の出し方は変えていく必要がある。そのような発信する側の意図や工夫を学んでもらいます。さらに記事作りの段階では、アーティストにきちんと取材依頼をして事実確認や肖像権の確認なども行います。非常に時間がかかりますが、そこまでやってはじめて情報というのは正しく出せるんだよ、ということを学ぶわけです。
 ここで学んだ全ての学生が将来「発信する側」に回るわけではないでしょう。けれど最近、ネットなどでキュレーションメディアの問題が取り上げられているように、自分たちが見ている情報がどのような形で作られているのか、それを自分で見極めることも大切です。一度でも発信する側を経験しておけば、情報を見る目が養われるのではないかと思っています。
 また、音楽とは少し離れますが、昨年は地元の八王子まつりに参加する山車19台それぞれにビーコン端末を設置し、近づくとそれぞれの歴史や上に飾られている人形の情報などが配信されるサービスを実施しました。せっかくそこにある面白い情報が、見る側には全然伝わっていないと思ったことがきっかけです。このように企業や地域の方々と連携して、人と人とをつなげる新しいコンテンツビジネスの提案も行っています。

■今後の展望と学生さんへのメッセージをお聞かせください。

 私は音楽というジャンルは、もう音楽だけでは成り立たないと思っています。たとえばわかりやすいところでは映像やアニメ、さらにファッションや個人の趣味など、生活そのものと結びつけて音楽を楽しむことが必要になってくるのではないか。潜在的に音楽が好きな人やマーケットはまだまだあるはずなのに、まだ掘り起こせてないように思います。とにかく「音楽を楽しむ」ことが、もっとビジネスになっていけばいい。今は、そのためのいろいろな取組を考えているところです。
 例えば去年、研究というよりは半分趣味のような形で友人と一緒にやったのが「録音をもっと楽しもう」というプロジェクト。ユーミンの音楽が好きでコピーバンドをやっている方々に、実際にユーミンが録音したスタジオで、ユーミンのレコーディングスタッフの方をお呼びして彼らの演奏を録音してCDを作ったんです。プロのエンジニアと一緒にスタジオ録音するというのは、普通の人にとってはあまりできない経験で、これはある程度ビジネスとしても成立するのではないかと思っています。
 メディア学部に興味がある人たちへ伝えたいのは、過去を学んで未来を作って欲しいということです。メディアと密接な関係がある音楽ビジネスの歴史を学べば、ラジオやテレビ、新聞、印刷といったいろいろなメディアについて知り、さらにこれから先の展開を読むことができるようになります。そして、そこには新たなチャンスがたくさんあるはずです。過去を知ることを通して、これからの自分たちの未来や自分自身の将来について考えてみてください。

■メディア学部WEB:
/gakubu/media/index.html

?次回は5月12日に配信予定です。